研究概要 |
平成25年度は、 A)平成24年度に引き続き、外部環境(熱溜め)効果の解析を続けた。量子導体を流れる電子により運ばれる熱流を考え、外部環境を温度プローブ電極(熱溜め)でモデル化し、熱流の完全計数統計(確率分布)を求めた。温度プローブ電極は自由度が大きく単一モードのフォノンよりも現実の外部環境に近いモデルである。解析の結果、量子導体と熱溜めが定常状態に達すると、やはり熱溜めの影響を受けていても揺らぎの定理が成り立つことを確認した。(Y. Utsumi, O. Entin-Wohlman, A. Aharony, T. Kubo, Y. Tokura:"Fluctuation theorem for heat transport probed by a thermal probe" arXiv:1403.5582) B)熱溜めと結合した量子2準位系を振動外場で駆動したときの、熱溜めに放出される熱量の完全計数統計を求めた(これは研究実施計画の「1次元伝送線共振器と結合した超伝導電荷量子ビット」のモデルである)。そして、熱溜めに放出される熱量を、温度プローブをもちいて実時間で観測することで、量子系における揺らぎの定理が、現在の実験技術で検証できる可能性を示した。 研究目的は「量子コヒーレント状態の制御や検出によるディフェージングに関わる仕事と熱の分布を揺らぎの定理を用いて解析し、発熱の最小化などについての指針を与えることを目的とする。また仕事分布を実験で測定する方法も理論的に提案する。」である。当初の計画より、より実験が直面している問題であるディフェージングに焦点をあて、その原因である外部環境の効果の考察に重点をおいた。A)は外部環境がある条件のもとでは揺らぎの定理に影響を与えないことを示した意義がある。B)は量子系の仕事分布測定法の理論提案となっている。
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