公募研究
新学術領域研究(研究領域提案型)
本年度は炭素数が2のアミノ酸,グリシン(NH2CH2COOH)と重水素原子との反応によるH-D交換に関する研究をおこなった。グリシンはメチルアミン(CH3NH2)にカルボキシル基(COOH)が結合した構造を持ち,H-D置換速度に対する炭素鎖伸長の影響を評価するうえで,ふさわしい分子である。先行研究では,赤外分光法(IR)および核磁気共鳴分光法(NMR)により反応生成物の分析をおこない,グリシンの炭素に結合する水素が重水素に置換されることまでがわかっていた。しかし,両分析法では定量的に反応の程度を明らかにすることができず,D原子との反応がどれほど有効か,よくわかっていなかった。本研究では,IR,NMRにかわり,質量分解能70000を超える,高分解能質量分析計(HRMS)を用いて,グリシンとD原子の反応によるH-D置換反応を定量的に解析した。HRMSで反応生成物を分析すると,得られるマススペクトル上でNH2CH2COOH(d0-Gly)とその重水素一置換体,二置換体であるNH2CHDCOOH(d1-Gly),NH2CD2COOH(d2-Gly)を分離することができ,ピークエリアの比較により,各置換体の相対存在度を求めることができた。D原子に対してグリシン量が少ないほどd1-Gly,d2-Gly存在量が高くなり,本実験条件下ではd1-Gly,d2-Gly生成量はd0-Glyに対して最大でそれぞれ24%,6.3%であった。D原子存在量が実験よりもはるかにすくない星間分子雲環境では,それらの相対存在量はd0-Glyをはるかに超えることが示唆された。本結果は,これまでに星間分子雲でd0-Glyが検出されていない理由の一つとして,新たにそのほとんどが重水素置換されているという可能性を提案した。またメチルアミンとは異なり,グリシンのアミノ基がH-D交換したという明確な証拠は得られなかった。
27年度が最終年度であるため、記入しない。
すべて 2016 2015 2014 その他
すべて 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 2件、 オープンアクセス 1件、 謝辞記載あり 1件) 学会発表 (23件) (うち国際学会 10件、 招待講演 3件) 備考 (1件)
Chemical Physics Letters
巻: 634 ページ: 53-59
10.1016/j.cplett.2015.05.070
Faraday Discussion
巻: 168 ページ: 185-204
10.1039/c3fd00112a
http://www.lowtem.hokudai.ac.jp/astro/oba/index.html