多くの哺乳類は37度付近以下の低体温の状態が続くと全身恒常性の破綻により死に至るが、一部の哺乳類は低体温・低代謝の「冬眠」と呼ばれる状態で恒常性を保ち生存できる。そこで本研究領域は、学術変革領域研究(B)「冬眠生物学」を更に発展させ、37度以下の幅広い温度域にまで及びうる全身の調整・適応の機構を探ること、すなわち恒常性について未知の拡張的な原理を探索するべく、冬眠・休眠のメカニズムの解明を目指している。具体的には、冬眠哺乳類であるシリアンハムスターを一つの主要モデルとし遺伝子改変技術を用いるなどした解析で冬眠の発動に関わる遺伝子・神経回路などの同定を目指す一方、視索前野の「Qニューロン」と呼ばれる神経細胞に対する興奮的操作によって人工的な冬眠様低代謝状態(=QIH)を起こすことができるマウスをもう一つの重要なツールと位置付け、冬眠と睡眠の関係や冬眠とQIHの関係などについて機能的な解析を計画している。領域代表者のリーダーシップのもと、低体温感知、産熱・寒冷応答、記憶・視床下部機能、遺伝子改変動物技術開発、多臓器連関トランスオミクスという編成の計画研究組織との緊密な連携と、冬眠・休眠・恒常性などのメカニズム追求に対するユニークな切り口を有する公募研究との相互刺激を通じて「拡張された恒常性」の理解が進むことが期待され、将来的な医学的な応用・波及にも期待が持てる。
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