本研究領域は、細胞を刺激応答する際の細胞膜脂質、構造の変化や、イオンチャネルの挙動を観察する技術を開発し、領域代表者らが取り組んできた計測系を用いて機械刺激による細胞応答を明らかにすることを目的としている。各種ストレスへの対応について、細胞内外をつなぐ構造としての接着や細胞骨格及び細胞膜の脂質種や分布などの微小環境「膜臨界場」に着目している点が長所である。また、これまでのストレス反応関連研究において主に対象とされてきたシグナルカスケードではなく、センシング前の状態の膜脂質および周辺構造が重要であるという視点も特徴である。これらの視点につながる研究成果を発表してきた若手研究者により計画研究組織が構成されており、連携の核となる解析手法については実績もあり優位性もある。特に、機械刺激や温度刺激によりに細胞膜の脂質構成が変化し、膜脂質感受性チャネルのPIEZOやTRPの構造が変化する結果、細胞応答が引き起こされることが示されれば、物理的刺激によるチャネル反応のメカニズムが解明されることが期待される。細胞膜可塑性はさまざまな生命現象に関与しており、研究成果に基づく波及効果は広範である。一方で、力学的解析にシミュレーションを融合させる手法の有用性に期待はあるものの、「膜臨界場」の定量化指標として容易に測定可能な一般性のあるものにできるかが課題である。
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