研究領域 | 温度を基軸とした生命現象の統合的理解 |
研究課題/領域番号 |
15K21744
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研究機関 | 大学共同利用機関法人自然科学研究機構(新分野創成センター、アストロバイオロジーセンター、生命創成探究 |
研究代表者 |
富永 真琴 大学共同利用機関法人自然科学研究機構(新分野創成センター、アストロバイオロジーセンター、生命創成探究, 生命創成探究センター, 教授 (90260041)
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研究分担者 |
今本 尚子 国立研究開発法人理化学研究所, 開拓研究本部, 主任研究員 (20202145)
梅田 眞郷 京都大学, 工学研究科, 名誉教授 (10185069)
原田 慶恵 大阪大学, 蛋白質研究所, 教授 (10202269)
中村 和弘 名古屋大学, 医学系研究科, 教授 (00548521)
土居 雅夫 京都大学, 薬学研究科, 教授 (20432578)
南 雅文 北海道大学, 薬学研究院, 教授 (20243040)
高木 昌宏 北陸先端科学技術大学院大学, 先端科学技術研究科, 教授 (00183434)
久原 篤 甲南大学, 理工学部, 教授 (00402412)
岡部 弘基 東京大学, 大学院薬学系研究科(薬学部), 助教 (20455398)
山田 哲也 東京医科歯科大学, 大学院医歯学総合研究科, 教授 (90400374)
柴崎 貢志 群馬大学, 大学院医学系研究科, 准教授 (20399554)
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研究期間 (年度) |
2015-11-06 – 2021-03-31
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キーワード | 温度生物学 / 生理学 / 神経科学 |
研究実績の概要 |
1) 温度感受性TRPV2チャネルのメチオニン残基が過酸化水素で酸化されて機能増強を起こすことを明らかにした。(富永)2) 脂質膜の挙動とダイナミクスは物理的および化学的な外部刺激によって影響を受けるが、浸透圧が膜相分離構造に与える影響に着目し、線張力の変化について詳細な検討を行った。(高木)3) シンプルな実験動物を使い個体の温度応答に関わる新規の分子としてKCNQ型カリウムチャネルの生理的動態の解析を進めた。(久原)4) Hikeshiの機能が損なわれたために起こるHsp70の核内喪失の影響と、Hikeshi輸送が駆動するメカニズムを明らかにした。(今本)5) 細胞膜の物性および膜脂質の分子動態の評価方法を確立した。(梅田)6) 蛍光性ナノダイヤモンド(FND)を用いて、細胞内の熱生産や熱感知のメカニズムを明らかにした。(原田)7) 小胞体の構造と機能に異常が生じる疾患モデル細胞における細胞内温度計測・熱特性解析を実施し、小胞体の構造に起因する細胞内温度変化を発見した。(岡部)8) 睡眠メカニズムと熱産生メカニズムの解明を試みた。(中村)9) 臓器連関が、褐色脂肪組織の熱産生の低下を引き起こし、体重の減少を最小限にとどめる生理的な機構であることを明らかにした。(山田)10) 新たな体温の日内制御機構を明らかにした。(土居)11) 自由行動中のin vivo電気生理学実験の手術や行動実験を学んで研究室に導入した。(南)12) 細胞が浮腫を起こした際に、体温にプラスして細胞容積増大に伴う膜伸展刺激が生じることでTRPV4の異常活性化が惹起することを見いだした。(柴崎)
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
1) 温度感受性TRPV4チャネルがATP放出からadenosine, B2受容体を介して食道上皮細胞のwound healingを抑制することを明らかにした。(富永)2) 相挙動に対する浸透圧の影響を、蛍光顕微鏡により異なる温度で定量的に調べて詳細な相図を作製し、張力が相分離の温度特性に関係することを明らかにしつつある。 さらに、浸透圧が誘起する相分離の物理化学的メカニズムを説明することが分かった。(高木)3) 神経系における温度情報伝達に関わる新規の分子としてKCNQ型カリウムチャネルの生理的動態の解析をすすめ学会発表した。(久原)4) HikeshiとHsp70は、HikeshiのN末領域に存在する疎水ポケットと相互作用する核膜孔複合体構成因子存在下で温度依存的に結合することが示唆された。(今本)5) 確立した評価方法を用いた解析により、膜物性と膜動態の新規な制御機構を明らかにしつつある。(梅田)6) 発熱特性を有するポリマーでFNDの表面を修飾することよって、発熱と温度計測を同時に達成できるナノシステムを開発し、細胞内局所の熱伝導率が水と異なることを実験的に明らかにした。(原田)7) 睡眠、体温、ストレスをつなぐ神経回路に関する共同実験を行った。また、米国・UCSFと熱産生機能に関する実験データをまとめた。(中村)8) 飢餓時に肝臓から分泌される液性因子が、褐色脂肪の熱産生低下を引き起こす臓器連関に関与していることが明らかになった。(山田)9) 体温下での細胞容積増大に伴うTRPV4異常活性化の分子機構を解析中である。(柴崎) 以上のように積極的に国際共同研究を進めてきたが、実験機器の調整に手間取って計画実行に遅れが生じた。また、新たな発見があって、追加実験が必要になった。
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今後の研究の推進方策 |
1) マギル大学、中国西交利物浦大学、韓国KIT、Omanスルタンカブース大学等との共同研究をさらに推進する。(富永)2) 負電荷脂質を含んだ細胞模倣膜(リポソーム)を用いて、浸透圧をはじめとする物理的刺激、生理活性物質等による化学的刺激が、膜相分離構造、特に線張力に与える影響を調べる。(高木)3) 温度受容に関わる新規の分子の培養細胞などにおける生理学的解析を進める。(久原)4) Hikeshiの疎水ポケットに点変異があると蛋白質が不安定になる。その点変異でヒト遺伝子疾患白質髄質症が誘引されるが、メカニズムは不明である。今後はマウス疾患モデルを用いてそのメカニズムを明らかにしていく。(今本)4) 国際共同研究により確立した評価方法を用いて、温度変化に起因する細胞膜の物性および膜脂質の分子動態の評価を進める。(梅田)5) FNDを細胞内の特定のオルガネラターゲティングする方法の開発を目的にFND表面のポリマー修飾を行なう。(原田)6) ケンブリッジ大学医学研究所に研究者を派遣し、小胞体の観察法やその微小物理環境解析法を習得する。また、この技術を用いて小胞体の局在や状態解析と温度イメージングを同時に行い細胞内温度シグナリングの分子機構を解明する。(岡部)7) さらに共同研究を進め、得られた知見に関して、論文などでの発表準備を進める。(中村)8)飢餓時に認められる個体レベルのエネルギー消費の低下に、肝臓由来の液性因子を介する新規の臓器連関が関与していることが解明できたため、論文作成を進めている。(山田)9) 引き続き英MRC研究所、仏INSERM、米シンシナティ病院の共同研究者らと密な情報交換を行って共同研究を推進する。(土居)10) アストロサイト特異的TRPV4KOマウスを作製済であり、カルシウム活動・細胞代謝・細胞内温度の変化を調べる。(柴崎)
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次年度使用額が生じた理由 |
梅田、原田、岡部(研究分担者)がそれぞれ行っている共同研究に予想外の発見があり、研究計画を変更し次年度に研究打合せおよび解析実験を行う必要が生じた。 高木(研究分担者)は実験機器故障でデータ取得が遅れ、解析作業を次年度に行わざるを得なくなった。 富永がすすめている共同研究成果の論文投稿について、査読者意見を踏まえて追加実験の実施が不可欠となったため、次年度共同研究者が来日し実験を行う必要が生じた。
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