これまでの性の研究過程において、我々は雌雄を二項対立的な表現型として捉えてきた。つまり、性決定遺伝子が精巣または卵巣への分化を決め、その後精巣と卵巣で産生される性ステロイドが個体の性分化・性差を誘導すると理解してきた。しかし、そのような観点からは、ヒトの性同一性障害で認められるような個体を構成する器官(細胞)の間での性の乖離、あるいは一部の動物種で観察される温度依存的性決定や性転換などの現象に明快な説明を与えることが困難であった。そこで本領域の主要な研究者が慎重に議論を重ねた結果、「性スペクトラム」の概念を想起するに至った。つまり、雌雄を二項対立的に分類するのではなく、連続する表現型(性スペクトラム)として捉えるとの考え方である。このような特徴を有する性スペクトラムを理解するためには、性スペクトラムの遺伝的基盤の成立機構、内分泌要因による細胞・器官の間の性スペクトラムの同調の機構、さらに環境要因による性スペクトラムの修飾・攪乱の機構を解明することが重要であるとの観点から、本領域では、遺伝要因、内分泌要因、ならびに環境要因に焦点をあてた研究項目を設定した。総括班の活動を通じ、これらの研究を活性化させた。共同研究による原著論文は、2019年の中間評価の時点でわずか3報だったのに対し、2022年5月の時点で21報に激増した。若手研究集会ではSingle cell RNA-seq、DamID-seq、ChIP-seq技術に関するテクニカルセミナーを行った。領域会議ではメタボローム解析とCUT&RUN技術に関するテクニカルセミナーを行った。また研究リソース支援では、立花(計画)や高田(公募)による変異マウスの作製、および大久保(計画)による変異メダカの作製を積極的に進めた。これら総括班活動による支援が領域内共同研究の飛躍的な増加をもたらした。
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