20世紀の分子科学は単純化、理想化、精密化の研究の時代であり、分子線中のクラスター構造とダイナミクスの研究、フェムト秒を切る勢いで発展している超高速レーザーとそれを用いた分光、さらに生体分子に対する共鳴ラマン分光など、様々な方法が開発され、分子科学の基本分野において、個々の分子やクラスターに対する素過程的理解は極めて深まってきた。一方、生体機能に代表されるような実在分子高次系における分子の働きは複数の過程により実現され、協調的に連動することで極めて効率よく精緻に機能している。この精緻な協調的連動を素過程に分解して理解することは、21世紀の分子科学に課せられた大きな命題であり、生命科学、材料科学、ナノサイエンス、など様々な実在分子高次系に対する科学の知的基盤を提供する。そこで、本領域「高次系分子科学(略称)」では分子科学とその関連分野で発達した計測技術と素過程的理解を融合し、新たな先端的計測方法論を創出しつつ実在分子高次系の分子論的理解を目指す。気相クラスター、凝縮相、生体分子研究など、従来は個別に発展してきた領域の研究者が分野の垣根を超えて緊密に連携することにより分子科学に新しい潮流をつくり、高次複合性に対する分子論的理解を目指す。本特定領域で創出される新たな研究手法は、これら高次な分子相互作用で成り立つ現象を理解するツールとして、化学のみならず生命からナノ・材料まで広い領域の学術研究に対して貢献することが期待される。
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