研究領域 | 海底下の大河:地球規模の海洋地殻中の移流と生物地球化学作用 |
研究課題/領域番号 |
20109001
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
浦辺 徹郎 東京大学, 理学(系)研究科(研究院), 教授 (50107687)
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研究分担者 |
沖野 郷子 東京大学, 大気海洋研究所, 准教授 (30313191)
砂村 倫成 東京大学, 理学(系)研究科(研究院), 助教 (90360867)
石橋 純一郎 九州大学, 理学(系)研究科(研究院), 准教授 (20212920)
高井 研 独立行政法人海洋研究開発機構, 極限環境生物圏研究センター, プログラムディレクター (80359166)
鈴木 勝彦 独立行政法人海洋研究開発機構, 地球内部変動研究センター, グループリーダー (70251329)
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キーワード | 海底下の大河 / 海底熱水活動 / 地下生物圏 / 化学合成 / 熱水生態系 / 海底下微生物圏 / 物質循環 / 生命の起源 |
研究概要 |
本年度は「海底下の大河」計画の最終年度として、これまでの研究で得られた多くの成果を国内外の学会において広く成果を公表することに注力した。また、それらの準備と取りまとめのための全体集会を開催した。さらに、福島原発からの放射能漏れの緊急調査などにより延期されていたインド洋中央海嶺へのしんかい6500航海などを実施し長期観測を行うと共に、前回の航海で発見した新たな熱水地帯の調査を行った。 海外における成果公表として最も力を入れたのは、2012年12月にサンフランシスコで開催されたアメリカ地球物理学連合(AGU)秋期大会であり、そこで大河計画の特別セッションを含む3つのセッションであわせて約50件の発表を行った。そこでの発表の詳細を相談するため、東京で2012年9月に全体合宿会議を開催し60名が参加した。 国内では2012年5月に幕張メッセで開催された地球惑星科学合同大会において「海底下の大河セッション」を組織し、10件の口頭発表および15件のポスター発表を行った。また、並行して一般セッションにおいてもそれに相当する関連発表が行われた。 またそれら以外の国際学会での若手研究者による発表の旅費支援を行うとともに、あらたな研究領域の将来を担う大学院生の育成のため、大学院生が別の大学の異分野の研究室を長期訪問するための制度(T-MORE)により、2名の旅費支援を行った。 これらの活動に対し、総括班評価者である大気海洋研の川幡教授より口頭で評価コメントを頂き、その後の指針に活かした。また国際協力と成果公表を共同で実施するため、国際海嶺共同研究計画(InterRidge)の分担金を支出すると共に、運営委員会に担当者を派遣した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
理由:本計画は仮説を立て、それを実際の航海によって検証するという独特な研究スタイルを取っている。これは実験室内やコンピュータ上で行う研究と異なり、1年以上をかけて航海を計画し、長期乗船してそれを実施し、試料やデータを持ち帰って解析・分析する段取りが必要であり、さまざまな外的要因を考慮した長期にわたる綿密なプラニングが求められる。しかし、その困難を乗り越え、当初計画の倍以上の航海を実現し、かつ関わったほぼ全員の研究者が研究期間内に地球科学界最大の国際集会であるAGUで成果発表することができたなど、想定以上の成果を上げている。 本研究の遂行により、当初立てた仮説である4種類の海底下の大河が存在し、そこにおいては熱水=大河中に溶存する化学成分の持つ化学エネルギーの種類と量が、そこに棲む化学合成微生物の種と見事に対応していることが示された。そして、熱水の化学組成は、それが流れてきた”流域”のテクトニクス、構造、地質、岩石を反映していることが判明した。特に島弧・背弧における熱水は、鉛、バリウム、ヒ素などのプレート沈み込み帯に特徴的な元素群を含み、海洋水中のそれらの元素濃度をコントロールしていることが判明した。中央海嶺の熱水活動と合わせて考えると、海底下の大河=海底の熱水活動は、ほぼすべての元素について地球における元素循環における主要プロセスであり、それにより支えられた地下生物圏は、地球上のもう一つの主要な生命圏である。そこで生産された有機物はプルームとして海水中に放出され、食物連鎖に取り込まれている。このような熱水生態系の科学的解明が進んだことで、今後進展すると思われる海底資源開発に伴う環境影響評価に用いられるなど、波及効果も生まれている。
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今後の研究の推進方策 |
本研究領域は、「海底下の大河」の影響を地質-化学-生命の多面相互作用として解明・理解することを目指し、単独の科学分野では為し得ない新しい地球生命科学の領域を切り開くことに成功した。よって、本研究領域の成果を取りまとめるにあたって、それぞれの分野ごとに専門誌に発表するのでは、分野統合的な本計画をさまざまな分野の人にまとめて理解してもらうことは困難である。 そこで、本研究領域では、研究計画の終了にあたり、オープンアクセスのオンライン書籍(e-Book)として成果の取りまとめを行うことを計画している。これは科学雑誌(専門誌)と本(出版物)の中間に位置する発表形態で、インターネットからpdfとしてダウンロードできる専門誌の至便さと、ハードカバーの本としてすべての成果を一覧できる総合性を兼ね備えている。 なお、オープンアクセスというのは論文をダウンロードする際に、利用者が代金を支払わなくてもよい仕組みのことで、これにより広く成果を公表することが可能となる。 出版社としては世界で最も多くのe-Bookを出版しているシュプリンガー社を選定する予定である。なお文献検索大手のトムソン・ロイター社は昨年秋よりBook Citation Indexというシステムを発売しており、e-Book出版物もWeb of Science上で雑誌と同様に検索できるようになりつつある。また、自分が引用した文献にはCrossRefというシステムを介在してリンクが張られるので、これまでのeBookの問題点であったインパクトファクターが成立しない点は解消されつつある。
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