研究領域 | シナプス・ニューロサーキットパソロジーの創成 |
研究課題/領域番号 |
22110001
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研究機関 | 東京医科歯科大学 |
研究代表者 |
岡澤 均 東京医科歯科大学, 難治疾患研究所, 教授 (50261996)
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研究分担者 |
貫名 信行 独立行政法人理化学研究所, その他部局等, 研究員 (10134595)
岩坪 威 東京大学, 医学(系)研究科(研究院), 教授 (50223409)
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研究期間 (年度) |
2010-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | シナプス / ニューロサーキット / パソロジー / 分子病態 / 神経変性疾患 / 精神疾患 / 発達障害 / 治療 |
研究実績の概要 |
24年度のシナプス病態領域の主な研究成果として、以下の3件を代表例としてあげる。1)計画班員・井上治久(京都大学iPS細胞研究所・准教授)と公募班員・岩田修永(長崎大学薬学部・教授)は、患者さん由来iPS細胞でアルツハイマー病の病態の一部を解明し、 その成果はCell Stem Cellに掲載され、京都大学からプレスリリースを行った。2)公募班員・郭 伸(国際医療福祉大学特任教授、東京大学大学院医学系研究科 疾患生命工学センター 臨床医工学部門 客員研究員)らは、AMPA受容体サブユニットのRNA編集異常による異常なカルシウム透過性AMPA受容体の発現が、タンパク分解酵素カルパインの活性化を通じてTDP-43病理を引き起こしているという細胞死カスケードを初めて解明した。 3)計画班員・井上治久(京都大学iPS細胞研究所・准教授)は、疾患特異的iPS細胞を用いてALSの病態解析をした。また、その成果をSci Transl Medに掲載し、京都大学からプレスリリースした。 領域メンバー間および領域外との学術的交流を促す為に、『脳疾患関連3領域合同シンポジウム』、『シナプス病態』の夏の班会議、『シナプス病態』の冬の班会議を開催した。『脳疾患関連3領域合同シンポジウム』および『シナプス病態』の夏の班会議は、包括脳夏のワークショップの中で行ったものであり、神経科学領域全般との研究交流に役立った。 また、計画班員の林らはコールドスプリングハーバーアジアミーティング "Neural Circuit Basis of Behavior and its Disorders" を中国・蘇州にて主催し、国際的な研究交流に貢献した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究領域の目的は、種々の変性疾患・発達障害性疾患・精神疾患において、遺伝子異常が各種の細胞機能異常を介してシナプス異常に至る分子過程と、サーキット選択性をもたらす病態を明らかにし、各種疾患から得られた成果の比較統合から病態の相違と共通性を明確にし、新たな病態分類と疾患治療の基本戦略を探ることにある。これまでに、基盤支援技術の2光子顕微鏡で脳疾患モデルマウスの神経細胞のin vivo観察が可能となり、公募班員との共同研究4件を含め、発達障害と変性疾患の遺伝子組み換えモデルマウスの解析が24件進行中である。iPS細胞についてもアルツハイマー病患者からの細胞株を樹立した。また、CamKII活性をin vivo観察する新規技術も確立した。これらの技術革新は、多くの班員の研究に提供される予定である。変性病態とシナプス分子の関係についても、アミロイド産生に関わる細胞膜上の酵素ADAM10がneuroligin1を切断することなど新たな知見が得られている。サーキット特異的なマーカータンパク質発現系も開発が進行しており、運動ニューロン変性に関わる新たな分子機構が明らかになった。さらに、採択時に指摘のあったグリア細胞機能障害と脳疾患の関連についても、バーグマングリアの変性に関わる新規分子Maxerの発見、グリア細胞と軸索再生をつなぐ新たな分子的基盤の発見など重要な成果を得ることが出来た。このような多くの成果は、282報の国際論文となり、total IFは1430を上回る。このうち、13件はプレスリリースされ68件のマスコミ発表につながった。また、国際特許取得4件ならびに多数の特許申請につながっている。これらの成果を勘案すると、本研究は計画通り順調に進行しているものと判断している。
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今後の研究の推進方策 |
A01: シナプスパソロジー(岡澤、岩坪), A02: サーキットパソロジー(貫名、勝野), A03: 新技術(林、井上)の組織構成を基盤として、脳疾患における、1)細胞機能障害からシナプス機能障害につながる分子機構の詳細、2)シナプス障害の実態の解明、3)シナプス機能障害と細胞機能障害の量的・時間的関係、4)シナプス機能障害を不可逆化して細胞死過程に進行させる分子スイッチの実態、を解明する(研究項目A01)。並行して、ニューロサーキット選択的障害を引き起こす分子病態の研究を行う。球脊髄性筋萎縮症(BSMA)、筋萎縮性側索硬化症(ALS)ハンチントン舞踏病の選択性を対象とした研究から、細胞機能障害を促進する因子あるいは抑制する因子を同定する(研究項目A02)。さらに、A01とA02の課題に取り組むための新しい切り口として先端的分子イメージング研究と幹細胞研究を加え、領域全体としての学術水準の強化を図る(研究項目A03)。 新たな公募班員を迎えて、研究項目間の相互乗り入れによる研究加速化を促進すると同時に、2光子顕微鏡などの先端的イメージングとiPS細胞技術を技術的な核として計画班員と公募班員の相互交流を図り、若い世代の育成と脳疾患研究の次世代への継承を目指す。
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