研究領域 | 現代文明の基層としての古代西アジア文明―文明の衝突論を克服するために― |
研究課題/領域番号 |
24101001
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研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
常木 晃 筑波大学, 人文社会系, 教授 (70192648)
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研究分担者 |
丹野 研一 山口大学, 農学部, 助教 (10419864)
三宅 裕 筑波大学, 人文社会系, 准教授 (60261749)
久田 健一郎 筑波大学, 生命環境系, 教授 (50156585)
本郷 一美 総合研究大学院大学, 先導科学研究科, 准教授 (20303919)
山田 重郎 筑波大学, 人文社会系, 教授 (30323223)
池田 潤 筑波大学, 人文社会系, 教授 (60288850)
柴田 大輔 筑波大学, 人文社会系, 准教授 (40553293)
丸岡 照幸 筑波大学, 生命環境系, 准教授 (80400646)
安間 了 筑波大学, 生命環境系, 講師 (70311595)
八木 勇治 筑波大学, 生命環境系, 准教授 (50370713)
黒澤 正紀 筑波大学, 生命環境系, 講師 (50272141)
谷口 陽子 筑波大学, 人文社会系, 助教 (40392550)
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研究期間 (年度) |
2012-06-28 – 2017-03-31
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キーワード | 西アジア文明学 / 古代西アジア文明 / 現代文明の基層 / 文明の衝突 / 人類史の転換点 |
研究実績の概要 |
初年度にあたる平成24年度は、これからの5年間の計画を踏まえて、事務局の立ち上げと各計画研究のコーディネート、領域としての研究統合のためのシンポジウム・研究会開催などに着手しました。 各計画研究で実施したイラン、トルコ、オマーンのフィールドプロジェクトは、それぞれホモ・サピエンスの拡散問題や人類の定住化問題といった、人類史上の重要な転換点の解明に寄与するプロジェクトとして、国内外の関心を集めています。シリアのテル・タバーン遺跡の楔形粘土板文書解読プロジェクトの進行もまた、大きな国際的反響を得ています。 シンポジウム・研究会については、国際シンポジウム「彩色文化遺産の有機物の分析に関するシンポジウム」を平成25年1月に開催し、エジプトや敦煌莫高窟の壁画など様々な地域の彩色文化遺産の膠着材分析について、議論を深めました。また環境科学からは、平成24年11月に遺跡や文化財に多大な影響を与える地震学の成果を地質学セミナーの一環としてトルコ・イスタンプール工科大の教員を交えて文化財保護の観点からまとめました。このほか、24年12月に米国マイアミ大学の研究者らを招いて「西アジアの地質とテクトニクス」シンポジウムを、同12月に東京大学の研究者による第4紀の地質資料と広域テフラについての講演会、25年2月にフィンランドから研究者を2名招いて古代オリエント文献学のシンポジウム、同2月にフィッショントラック研究会と共催で「考古学との連携」シンポジウム、25年3月にイスタンブル大学の研究者を招聘して南東アナトリアの新石器化に関するシンポジウム、同月にトルコ・バットマン大学学長らを招聘して遺跡の史跡公園化に関する講演会などを連続して開催し、西アジア文明学の構築に向け活発な議論を続けています。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
各計画研究班のフィールドワークや個別研究は、本領域研究の基盤をなすものであり、フィールドプロジェクトのうち、イラン・アルサンジャン地区の調査ではタンゲ・シカン洞窟の発掘調査を開始し、平成24年度には本格的調査に至っています。ザグロス南部地域におけるほぼ初めての中期旧石器時代遺跡調査であり、中期旧石器時代から後期旧石器時代、さらに新石器時代にかけての良好な文化層の存在が明らかにしました。特に中期旧石器時代の水場遺構の発見は特筆すべき発見で、中期旧石器時代の人々が土木工事に長じていたこと、刻みをつけたウマ科の腓骨の発見からは当時の人々が抽象概念をすでに有していたことなどが明らかになりつつあります。これらは、南イランの中期旧石器時代人が私たちの想像以上に進化した人々であることを示していて、その見事な石器製作技術とともに、彼らの出自を考える重要な材料が集まりつつあります。またトルコ・ハッサンケーフ・フユックの発掘調査では、先土器新石器時代A期の定住村落の全体像があきらかになりつつあり、彩色を施した特異な埋葬人骨が多数検出されています。現在これらの調査には国際的な注目が集まっていますが、平成25年度以降さらにフィールド調査を促進させるとともに、遺跡保存の調査も本格的に開始していきます。 計画研究の成果を総合するためのシンポジウムや研究会のコーディネートについては、海外からの研究者を招いた国際シンポジウムを4回、研究会を2回開催し、さらにこのほかにシンポジウム2回、研究会4回を開催するなど、非常に活発に取り組んでいると言えます。ただ初年度からかなり頻繁にシンポジウムや研究会が開催されているため、それらを統合して西アジア文明学を構築していくための方法についての議論がやや立ち遅れている感がありますので、平成25年度には統合へ向けての議論を活発化させていきたいと考えています。
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今後の研究の推進方策 |
上述したように、イラン、トルコ、オマーンのフィールドプロジェクトは、人類史上の重要な転換点の解明に寄与するプロジェクトとして、国内外の関心を集めています。また、シリアのテル・エル・ケルク遺跡、トルコのサラート・ジャーミー・ヤヌ遺跡などの調査に関する論文・報告や、シリアのテル・タバーン遺跡の楔形粘土板文書解読プロジェクトの進行もまた、大きな国際的反響を得ています。本新学術領域研究では、これらに加えて、遺跡の保存や遺物の理化学的分析、ダムサイト建設など破壊にさらされている遺跡に対する救済調査、さらに危機遺産への保存修復プロジェクトを積極的に立ち上げて、西アジア文明研究への多角的な貢献を継続していきたいと考えています。当初から計画していますように、現代文明にまで繋がる古代西アジア文明研究を推進するとともに、遺跡救済活動にも積極的に取り組み、これを一つの重要なオペレーションにしたいと考えています。もちろんすべてのオペレーションの協同研究者として大学院生の参加は不可欠であり、現地の各プロジェクトにおいて教育プログラムを強力に推し進めて、次代の研究者を育成しているところです。 最終的には、現代文明に影響を与えている古代西アジア文明の先進性や普遍性を解明すべく、実施踏査と調査研究を強力かつ愚直に推進していく覚悟です。
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