研究領域 | 新海洋像:その機能と持続的利用 |
研究課題/領域番号 |
24121001
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
古谷 研 東京大学, 農学生命科学研究科, 教授 (30143548)
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研究期間 (年度) |
2012-06-28 – 2017-03-31
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キーワード | 生態系サービス / 海洋区系 / 物質循環 / 太平洋 / 持続性社会 |
研究実績の概要 |
総括班の役割である領域内の研究推進および運営について、各計画研究班相互の連携およびデータセンターの運営、若手海外渡航支援、領域外への発信について以下を行った。班間連携については、本領域主催の研究航海(白鳳丸KH-14-3次航海)を実施して、平成26年6月から8月の50日間、西経170度線上の赤道からチャクチ海にわたる海域において項目A0l およびA02に属する各計画研究班および関連公募研究班メンバーが研究協力者である大学院生、ポスドクらとともに参加し、各課題に係わる共同研究を実施した。前年度実施したKH-13-7次航海と合わせて夏季の西経170度線上の南北太平洋縦断観測を終了した。全研究班代表者による総括班会議を11月および翌年3月に実施した。両総括班会議では、中間評価により指摘された課題点を中心に討議を行い、社会科学系分野を中心に研究期間後半の研究計画を確認した。領域全体集会を11月に開催し、成果の報告と今後の計画を討議した。また、海洋区系がほぼ確立されたことから9月13日に長崎大学において公開シンポジウム「持続的な海洋利用のための海洋区系」を開催し、領域内外からも多数の研究者参加を得て討議を加えた。 データセンターではこれまでに収集した試料の分析を進めた。前年度に引き続き、白鳳丸KH-12-3、KH-13-7、KH-14-3次各航海からのデータの収集と品質管理を進めた。若手研究者の海外渡航支援についても引き続き総括班では学際的な渡航目的に重点を置き、生物多様性会議COP12(韓国)、国際学会での成果発表(スペイン、オーストラリア)、海洋生態系動態についてのサマープログラム(上海)、共同研究(米国、台湾、デンマーク)など合計8名派遣した。成果の社会への公開については、領域ホームページの充実を中心に進めた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
海洋学分野の各計画研究班は公募班と連携して、領域主催「白鳳丸」3航海およびその他10航海において共同観測を実施し、海の基本台帳の基礎データベースの構築は順調である。これらの結果と既往知見から各研究班から様々な区系案が提出された。予定よりも早い進捗である。物理、プランクトン、高次捕食者から見た各区系案を、相互に検討して、統合して太平洋の海洋区系についての概要は確定した。これは地図に区系が貼り付いている従来の「固定した」海洋区系ではなく、時空間的な環境変動を内包した動的な区系で、新規性が高い。これまでの成果を平成26年9月13日に長崎大学で開催した公開シンポジウム「持続的な海洋利用のための海洋区系」においてすでに公表したが、今後、平成27年12月に領域が主催して開催予定の国際研究集会にむけて確定させる。 海の恵みの価値評価の第一段階として日本人の意識を調査し、統計的に分析した結果、日本人は恵みを、水産物を含む生活に必要な恵み、気候の調整などの間接的な恵み、文化的な恵みに大別して認識していること、その中で文化的な恵みの保全への意識が最も高いことが判明した。今後こうした解析を区系毎に進めていく。国際的な合意形成については、公海などの生物多様性の保全に関する複数の国際的な協議プロセスについて解析が進み、ある協議おける対立構造が別の協議に持ち込まれて合意形成が進まなくなる状況が存在していることを新規に見出すことができた。また、海洋科学と海洋ガバナンスの接続領域における現実の課題について事例研究が進んだ。 これらの成果は、平成26年9月に実施された中間評価において研究領域の設定目的に照らして、期待どおりの進展が認められるとしてA評価を受けた。
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今後の研究の推進方策 |
中間評価においては、「全体としては期待された効果が得られている」との評価を受けた。海の基本台帳の作成と海洋区系の確立については順調であり、一部については当初計画を上回る進捗をみせていると判断されたので、この点をさらに強化すべく、欧米の一線級研究者による評価・助言を受けるために平成27年12月に国際研究集会を開催する準備を進めている。 一方、科学的知見にもとづく海洋の国際ガバナンスの構築を主に担う研究項目A04については、中間評価において他の計画研究と比べた研究の進捗の遅れ、他班との連携強化が指摘された。海洋生態系サービスの持続的利用に向けた文理融合研究には欧米にも先行研究が乏しいことから、方法論確立のために事例研究がこれまでの中心であったためこの評価を受けたと考えられる。平成26年度中に事例研究の総括をほぼ終えたことから、その成果を今後活かす。具体的には、関連する欧米研究者との連携および領域内各班との共同研究を強化する。前者として、平成27年度4月に開催する国際シンポジウム「科学的専門家の役割:気候変動が水産に与える影響」および同7月にオーシャン・ヘルス・インデックス(海洋健全度指数)について国際研究集会を開催して、研究活動の加速化を図る。また、平成26年度には領域内に「海洋の二酸化炭素吸収」、「領域で得た海洋学の成果を基にしたTEEB再訪」に関する文理連携の2作業班を新たに設けて班間連携を強化したが、これをさらに発展させる。 中間評価においては、研究成果を社会に還元するというために、より積極的に社会への公表や、一般への啓発を行うことが求められたが、平成26年度中に領域ホームページの充実を進め、さらにこれを継続するとともに、サイエンスカフェなどその他の機会も利用する。また、若手育成についてもこれまでとおり取り組む。
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