研究実績の概要 |
すでに我々は、N,P-多座配位子を用いる異種の金属間結合を持つ錯体合成の方法論の開拓と、これにより合成したAl-Pd錯体を用いた二酸化炭素のシランを用いる還元反応の開発に成功した。今年度の研究で我々は、N,P-多座配位子のリン原子上置換基を変えた配位子を合成し、各種13族元素とPdとの金属間結合を持つ錯体の合成とその反応性の評価を行った。また、Pd以外の金属に関しても錯体合成の検討を行った。 まず、リン原子上にCy基、tBu基、3,5-(CF3)2C6H3基、4-MeOC6H4基を有する配位子の合成法を確立した。これらの配位子に対し過剰量のAlCl3、次いでPd2dba3CHCl3あるいはPd(allyl)Cpを作用させることで、目的のAl-Pd錯体を良好な収率で得ることができた。合成したAl-Pd錯体は単結晶X線構造解析を行うことに成功し、置換基による構造の違いからAl-Pd錯体の反応性を制御する上で重要な知見を得ることができた。 合成したAl-Pd錯体の反応性について検討した結果、リン原子上に3,5-(CF3)2C6H3基をもつAl-Pd錯体を触媒として用いるとα,β-不飽和カルボニル化合物のヒドロシリル化反応が1,2-選択的に進行することを見いだした。この反応は様々なアルケニルケトンやアルキニルケトンに加え、アルデヒドやエステル、アルジミン誘導体にも適用可能であり、対応する生成物が良好な収率で得られた。一般に、後周期遷移金属触媒を用いたヒドロシリル化反応は1,4-選択的に進行することが多く、またエステル誘導体に適用可能な例は少ない。以上、Al–Pd錯体のリン原子上置換基の効果を明らかとし、その合成化学的有用性を明らかにすることができた。 さらに、第2の金属としてPdに代え各種の9族金属の導入に関しても検討を行い、RhやIr錯体の合成に成功した。
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今後の研究の推進方策 |
これまで中心課題として行ってきた6,6”-ビスホスフィノ-2,2’:6’,6”-ターピリジンの系に関しては、継続してさまざまな異種金属の組み合わせについて広範な検討を行い、異種金属-金属結合を持つ錯体の合成法として確立すると同時に、これら錯体を用いた独創的な反応の開発を目指して継続的に検討を行う計画である。今年度の研究で錯体合成に成功した、RhやIr錯体に関してはその反応性を解明し、触媒反応への展開を目指して研究を進める。また、一つ目の金属としてこれまでは13族金属を中心に検討してきたが、今後は一つ目の金属として遷移金属錯体を導入し、遷移金属-遷移金属結合を有する錯体の合成とその利用についても検討する。また、配位子としてすでに中心部位にピロリド部位を導入した関連する配位子の合成に成功しており、これをアニオン性配位子として利用する新たな異種金属-金属結合を持つ錯体の合成とその利用についても検討を行う。併せて、広く精密制御反応場の観点から新しい可能性を追求する。
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