研究領域 | 高難度物質変換反応の開発を指向した精密制御反応場の創出 |
研究課題/領域番号 |
15H05803
|
研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
生越 専介 大阪大学, 工学研究科, 教授 (30252589)
|
研究期間 (年度) |
2015-06-29 – 2020-03-31
|
キーワード | N-ヘテロサイクリックカルベン / 二酸化炭素 / 混合酸無水物 |
研究実績の概要 |
平成28年度においては、PoxImの容積可変配位子としての可能性を探るためにニッケルや銅への配位が可能であるかの検討を行った。ニッケルにおいては、一酸化炭素が三分子配位した錯体の単離が可能であった。その後、溶液中では錯体上の一酸化炭素が解離し一酸化炭素が二分子配位した錯体が単離された。この際には、リンオキシド部分の酸素がニッケルに配位することで、ニッケル18電子錯体として存在している。しかしながら、これらの錯体を用いての環化カルボニル化反応を検討したが目的とする生成物は得られなかった。PoxImと銅との反応についても検討した。この際にも期待された錯体が得られる事が明らかとなった。反応性に関しては、まだ検討していない。 一方、予期されなかった研究成果としては、二酸化炭素とPoxImの反応が挙げられる。通常、N-ヘテロサイクリックカルベン(NHC)は二酸化炭素と反応して安定な付加体を与える。そのために、不活性な化学種として認識されている。PoxImもNHCの一種であり二酸化炭素との反応により不活性な化学種が得られると予想し反応を行った。しかしながら、実際にはカルベンにより捕捉された二酸化炭素に対してリンオキシド部分が転位することでカルボン酸とホスフィン酸との混合酸無水物が得られた。反応は室温にて速やかに進行する。また、得られた混合酸無水物は種々の求核剤と反応し非対称ケトンを与える。混合酸無水物は、このように非対称ケトン類を与える化学種として広く利用されているが、このように市販品から三段階で二酸化炭素を利用する反応は報告例がない。 二酸化炭素との反応経路に関して密度汎関数法にて検討したところ二酸化炭素は、カルベンに捕捉されたのちにリンオキシド部分が二酸化炭素に転位して生成物を与える事が分かった。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
PoxIm高活性であることを想定して、設計した配位子であったが、反応場を制御する事が期待されたリンオキシド部分がニッケルに対しては有効に作用しなかった。これは、反応条件下でのリンオキシド部分の配位力が有効に作用しなかったことに起因しているものと考えられる。しかし、その一方で、二酸化炭素との反応が室温に速やかに進行しカルボン酸とホスフィン酸との混合酸無水物が得られた。これは、全くの想定外の反応結果であった。これは、二酸化炭素に対してリンオキシド部分が転位することで反応は室温にて速やかに進行すると考えられる。また、得られた混合酸無水物は種々の求核剤と反応し非対称ケトンを与える。混合酸無水物は、このように非対称ケトン類を与える化学種として広く利用されているが、このように市販品から三段階で二酸化炭素を利用する反応は報告例がなく非常に意義深い研究成果であると考えられる。
|
今後の研究の推進方策 |
平成28年度において得られた、PoxImと二酸化炭素との反応結果は、配位子として用いた場合に想定される問題点、すなわちリンオキシド部分の解離の可能性を念頭においての再設計を行う。すなわち、反応場の容積を変化させる部分構造の官能基をより強固なものにする。具体的にはスルホニル基を有する配位子を設計・合成を行う。ここでは、中心金属に対して弱く配位しながら活性化エネルギーを低下させることで、高い触媒活性が望まれる。具体的には、N-ヘテロサイクリックカルベン(NHC)の窒素上の置換基にスルホニル基を導入する。このスルホニル基は遷移金属触媒の金属中心に配位することが知られているもの触媒の配位子に意図して導入された設計に基づくNHC配位子は報告例がなく、本研究での設計・合成が最初の例となる。PoxImとの違いを確認するために二酸化炭素との反応についても反応を検討する。 実際に行う触媒反応としては特に銅を中心金属とする不活性結合の活性化を経由する分子変換反応を行う。
|