研究領域 | 高難度物質変換反応の開発を指向した精密制御反応場の創出 |
研究課題/領域番号 |
15H05805
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
長谷川 淳也 北海道大学, 触媒化学研究センター, 教授 (30322168)
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研究期間 (年度) |
2015-06-29 – 2020-03-31
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キーワード | 触媒メカニズム / 系間交差 / 二酸化炭素固定 |
研究実績の概要 |
1.系間交差反応における遷移状態を計算する理論計算手法の開発と応用 始状態である三重項状態T1から出発し、生成物である一重項状態S0に至る反応では、ポテンシャル曲面における一重項と三重項状態の交線(シーム)におけるエネルギー極小点が反応の遷移状態になる。二つのスピン状態のエネルギーが等しいという拘束条件を課して、構造最適化を行えば、シーム上のエネルギー極小点として遷移状態を求めることができる。現在、金属錯体の化学反応への応用を行っている。 2.二官能性ポルフィリン触媒による二酸化炭素からの環状カーボネート合成に関する理論的研究 二酸化炭素とエポキシドから環状カーボネートを高効率で合成する二官能性ポルフィリン触媒が岡山大学の依馬らによって開発された。これまでの研究では、密度汎関数理論によるポテンシャル面の計算を行い、反応機構を検証すると共に、前駆錯体が遷移状態の構造に近いnear-attack conformation特性、中間体の静電的安定化など触媒を構成する特徴的な官能基の役割について明らかにした。今年度は、分子構造の揺らぎに関する分子動力学計算を実施して、前駆錯体の安定性について、構造の時系列変化の観点から検証した。また、4級アンモニウム錯体での同反応について、反応座標を詳細に検討して、二官能性触媒構造の優位性を明らかにした。更に、4級アンモニウム塩とポルフィリンの結合に関する位置異性体についてもポテンシャル面を研究し、メタ位で結合した触媒がエポキシドの開環過程で有利に機能することが明らかになった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究目標においては、生体触媒やそれに類する反応場における触媒機構の解析を通し、精密制御反応場の構築に寄与することを目標に掲げている。多くの酵素においては鉄イオンが活性中心となっている。異なるスピン状態がエネルギー的に近接するため系間交差を経る反応経路を研究する必要があるが、特に系間交差点が遷移状態になる系では本質的な問題である。また、タンパク質反応場などにおいては、官能基の立体配置やその柔軟性をも考慮した構造-機能相関を明らかにする必要がある。本研究では、これらの要請を満たすことのできる理論計算手法を開発・応用する。また、当該新領域研究における研究グループと共同研究を行う。未解明な反応メカニズムを明らかにし、触媒設計の指針を提案することで、精密反応場制御の新領域開拓に貢献することを目指している。 本年は、その基礎的な研究を実施する年度という位置づけで研究を行ってきた。その目標の一つとして、系間交差を経る反応経路を研究するために必要となる研究手法の開発を進めてきた。今年度は、これに成功して、実際に、いくつかの系において応用計算に成功した。また、触媒における構造-機能相関を明らかにする研究としては、生体触媒と類似のポルフィリン触媒における研究を行い、論文を受理されている。 以上のことから、平成27年度は、ほぼ目標を達成できた。
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今後の研究の推進方策 |
系間交差を経る触媒反応メカニズムに関する理論的研究: 平成27年度においては、系間交差超平面上におけるエネルギー極少点の計算が実現した。今年度は、遷移金属錯体におけるリガンド吸着に関するスピンブロック現象について、本手法を適用して、そのメカニズムを明らかにする。 柔軟構造触媒の反応場における構造-機能相関に関する理論的研究: 平成27年度においては、ポルフィリン触媒に関する研究を行った。今年度も引き続き、同触媒について研究を行い、置換基の位置異性体において観察される反応性の違いについて、その起源を明らかにする。また、螺旋型高分子を反応場とする触媒について、その局所的触媒反応場の構造を明らかにして、反応設計に有用な情報を提供する。 ルイス酸・塩基触媒による不活性結合の活性化に関する理論的研究: 領域内共同研究を実施して、frustrated Lewis酸・塩基における水素分子のヘテロ解離に関する反応機構を明らかにする。
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