研究領域 | 高難度物質変換反応の開発を指向した精密制御反応場の創出 |
研究課題/領域番号 |
15H05806
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
荘司 長三 名古屋大学, 理学研究科, 准教授 (90379587)
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研究期間 (年度) |
2015-06-29 – 2020-03-31
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キーワード | シトクロムP450 / 酸化反応 / 疑似基質 / ガス状アルカン / 補欠分子族 / ヘム / 金属錯体 / ヘム獲得蛋白 |
研究実績の概要 |
本申請課題は,天然に存在する酸化酵素に対して,その対象基質に構造の良く似た「疑似基質」(デコイ分子)を取り込ませ,活性種を強制的に生成させることにより高難度の物質変換を実現することを一つの研究目標としている.また,天然に存在する蛋白質の補欠分子族を合成金属錯体に置換することで,本来は酵素活性を持たない蛋白質に酵素活性を付与する,または,天然酵素の活性を凌駕する人工酵素の開発に挑戦する.本年度は,ヘム獲得蛋白質HasAが,ヘムとは骨格が大きくことなる鉄ジフェニルポルフィリンとその誘導体と安定な複合体を形成することを明らかにした.結晶構造解析により,HasAが一分子の鉄ジフェニルポルフィリンを捕捉することを確認した.さらに,鉄ジフェニルポルフィリンのメソ位を臭素化することでより強くHasAに取り込まれることなどを明らかにした.シトクロムP450のヘムの置換では,シトクロムP450BM3にヘムと構造は良く似ているが,二重結合をもたないメゾポルフィリンを取り込ませることにも成功した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本申請課題では,合成金属錯体を蛋白に取り込ませることで作製する人工酵素により高難度の物質変換を達成することを研究目標としている.既に,ヘム獲得蛋白質HasAが,本来の対象であるヘム以外の鉄フタロシアニンや鉄サロフェンなどの合成金属錯体と複合体を形成することを報告しているが,本年度は,これらに加えて,合成が比較的容易なジフェニルポルフィリンとその誘導体がHasAに取り込まれることを確認した.蛋白質結晶構造解析により,一分子のポルフィリンがヘムと同じ位置に取り込まれることを明らかにしている.ジフェニルポルフィリン骨格を有する合成金属錯体がHasAに取り込まれることを基盤に,共同研究をスタートし,ポルフィリン以外のアゾポルフィリンやケイ素を有するポルフィリンなどとHasAの複合化を試みている.研究成果としてはまとまってはいないが,本新学術領域研究での共同研究をスタートさせることができているので,おおむね順調に進展している.
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今後の研究の推進方策 |
ヘム獲得蛋白質HasAには,ジフェニルポルフィリン骨格の金属錯体が取り込まれることが確認できたので,ジフェニルポルフィリン誘導体を設計・合成し,より安定に取り込ませる.既に,蛋白に取り込まれる部分を臭素化するとより安定に取り込まれることが分かっており,他の合成金属錯体でも同様の置換が有効であると考えている.また,HasAを人工酵素として利用するためには,酸化活性種を生成するためと,基質が取り込まれるための空いた配座が必要であるので,部位特異的アミノ酸置換によって,HasAの第六配位子のヒスチジンをアラニンに置換した変異体を作製し,金属錯体との複合化と過酸化水素などを酸化剤とする酸化反応を検討する.また,シトクロムP450BM3のヘムを合成金属錯体に置換する手法を,ヘムと同じ骨格のポルフィリン以外への拡張を試みる.シトクロムP450BM3のヘムの置換は,ヘムを持たないシトクロムP450BM3を鉄制限培地で培養することでヘムが生合成されない条件で蛋白質を大腸菌に作らせる手法で,大腸菌を超音波で破砕する段階で合成金属錯体を添加する.ヘムと同じ骨格以外の金属錯体は,現時点では取り込まれてはいないが,ヘムのカルボキシル基が重要であることがある程度分かってきているので,ヘムと同じようにカルボキシル基を二つ有する合成金属錯体を合成して,複合化を試みる.さらに,シトクロムP450BM3だけでなく,高度高熱菌由来のP450のCYP119に同じ手法を適用し,長時間の反応が可能な高耐久性の人工酵素開発に取り込む.サロフェン骨格が取り込まれた場合には,本新学術領域研究での共同研究を進める.
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備考 |
名古屋大学大学院理学研究科生物無機化学研究室 http://bioinorg.chem.nagoya-u.ac.jp/
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