計画研究
金属酵素ならびに金属蛋白質に対して,それらが取り込む補欠分子族や基質に構造のよく似た合成化合物を取り込ませた人工金属酵素を作製することにより,高難度の物質変換や菌体の物質輸送を阻害することを研究目標として研究を進めた.シトクロムP450の補欠分子族のヘム(鉄ポルフィリン錯体)を温和な条件で取り除くことは,これまで不可能と考えられてきたが,ヘムを取り除いたミオグロビンをヘム捕捉剤として利用する新規手法を開発することにより,これまでヘムを置換するシトクロムP450としては対象外であった過酸化水素で駆動するシトクロムP450のヘムを合成金属錯体に置換することに成功した.また,これまでヘムを合成金属錯体により置換した人工酵素を用いる反応では,過酸により酸化活性種を生成させる必要があったが,新たに酸素分子を活性化できる反応系の構築にも成功している.さらに,過酸化水素駆動型シトクロムP450の活性部位の構造を,一般的な酸素分子を活性化するシトクロムP450で再現すると,過酸化水素駆動型に変換できることを実験的に示した.緑膿菌が分泌するヘム獲得蛋白質HasAに合成金属錯体を捕捉させる研究では,様々なジフェニルポルフィリン誘導体だけでなく,ジアザジフェニルポルフィリンもHasAに安定に取り込まれることを明らかにした.そして,ジアザジフェニルポルフィリンを捕捉させたHasAが緑膿菌のヘム獲得を阻害することも見出した.共同研究により,ポルフィリン骨格以外の合成金属錯体についても検討し,金属錯体を変えることで,HasAが二量体を形成する場合があることなども観測しており,金属錯体の構造を反映した機能を付与できると期待している.
2: おおむね順調に進展している
緑膿菌が分泌するヘム獲得蛋白質HasAが,本来の対象であるヘム以外のフタロシアニンやサロフェン,さらに,ジフェニルポルフィリン誘導体などの合成金属錯体と複合体を形成することを明らかにした.そして,HasAに取り込まれた金属錯体の構造の違いが,緑膿菌のヘム獲得阻害効果に影響を及ぼすことを確認している.また,本新学術領域研究での共同研究を進める過程で,いくつかの金属錯体がHasAの二量体化を促進する可能性があることを明らかにした.金属錯体の構造をうまく設計することで,安定な二量体を作製できる可能性がある.HasAは緑膿菌の外膜に存在する選択的な受容体のHasRと相互作用するが,蛍光性のガリウムフタロシアニンをHasAに取り込ませることで,HasAとHasRの相互作用を蛍光顕微鏡により評価できることも最近明らかにした.ジフェニルポルフィリンの中心金属をガリウムに置換することで,蛍光顕微鏡観察により,HasAとHasRの相互作用の強さと金属錯体の構造の関連を明らかにすることが可能になると考えてる.ジフェニルポルフィリン誘導体の研究に関しては論文を投稿する段階にあり,おおむね順調に研究が進展している.
ヘム獲得蛋白質HasAに,ジフェニルポルフィリン誘導体が安定に取り込まれることを明らかにしたが,緑膿菌のヘム獲得阻害による増殖阻害以外の機能を見出すことはできていない.本年度は,HasAを人工金属酵素として利用することを目指す.部位特異的アミノ酸置換によって,HasAの第六配位子のヒスチジンをアラニンに置換した変異体を既に作成しており,金属錯体が安定に取り込まれた場合には,過酸化水素や過酸などを酸化剤とする酸化反応を検討する.共同研究によりポルフィリン骨格以外の金属錯体についても検討する.すでに,鉄フタロシアニン補足HasA変異体に関しては,共同研究により触媒としての利用を検討しており,蛋白骨格を利用する不斉選択性の制御などに発展させる.反応活性や不斉選択性の向上には,他のアミノ酸の置換を検討する予定である.シトクロムP450BM3に関しては,既にヘムを合成金属錯体に置換し,置換した合成金属錯体による酸化活性種の生成と酸化反応に成功しているので,シトクロムP450BM3の本来の対象基質である長鎖脂肪酸以外の基質の反応に展開するとともに,ガス状アルカンやベンゼンなどの高難度酸化反応に挑戦する.
すべて 2017 2016 その他
すべて 雑誌論文 (3件) (うち査読あり 3件、 オープンアクセス 3件、 謝辞記載あり 2件) 学会発表 (15件) (うち国際学会 7件、 招待講演 11件) 備考 (1件)
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