研究領域 | 高難度物質変換反応の開発を指向した精密制御反応場の創出 |
研究課題/領域番号 |
15H05807
|
研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
山口 浩靖 大阪大学, 理学研究科, 教授 (00314352)
|
研究期間 (年度) |
2015-06-29 – 2020-03-31
|
キーワード | ハイブリッド触媒 / 生体高分子 / 反応場 / 分子認識 / 遷移金属錯体 / モノクローナル抗体 / 立体特異性 |
研究実績の概要 |
生体関連分子と合成高分子をハイブリッド化させた触媒材料の創製、並びに遷移金属錯体を特異的に結合するタンパク質としてモノクローナル抗体の作製を行った。 ヘムタンパク質は、遷移金属錯体であるヘムが補因子としてタンパク質の活性部位に取り込まれることにより、初めて酸素運搬、酵素、電子伝達などの機能を発現する。ヘム酵素HRPから補因子を抜き出したapoHRPと、補因子である鉄ポルフィリン(FePor)をそれぞれ導入したポリアクリルアミドゲルを合成した。これらのゲルが互いに接着することで触媒機能が発現する新しいシステムを構築することに成功した。apoHRPゲルとFePorゲルを4℃で接触させたところ、ゲルが接着した。apoHRPゲルとFePorゲル存在下、HRPの基質(ここではABTS)の酸化反応を観察した。接着した2種ゲルの界面から反応生成物に由来する色が広がってくることが確認できた。その反応速度は、apoHRP及びFePorのゲルへの導入量および2種ゲル間の接触面積に比例することがわかった。apoHRPゲルとFePorゲルを接着させるとABTSの酸化反応が加速され、2種ゲルを離すと反応が進行しなくなった。2種類のゲルの接着-解離によって触媒反応を制御できることがわかった。 各種クロスカップリング反応などの有用な反応の触媒として利用されている遷移金属錯体を取り込むモノクローナル抗体を作製し、得られた抗体と遷移金属錯体との複合体の機能について検討した。本抗体はロジウム錯体だけでなく、同様のホスフィン配位子を有するパラジウム錯体に対しても結合することがわかった。この抗体とパラジウム錯体存在下、常温の水系溶媒におけるアリル位アミノ化反応について検討を行った。HPLCによる分析の結果、立体選択的に反応が進行することがわかった。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では遷移金属錯体に「直接」結合するタンパク質を活用して、遷移金属錯体が引き起こす触媒反応に基質選択性や立体特異性を付与することを目的としている。 本年度はこの遷移金属錯体に結合するタンパク質として天然酵素から補因子を抜き取ったアポタンパク質と、テーラーメイドで作製したモノクローナル抗体を用いた。アポタンパク質と補因子を利用したシステムでは、高分子ヒドロゲルにこれらの成分を固定することで巨視的に触媒反応をコントロールすることに成功した。 モノクローナル抗体の研究では、ロジウム錯体のみならずパラジウム錯体にも結合するモノクローナル抗体を得ることができた。その抗体を用いることで反応が立体選択的に進むことがわかった。 したがって、本研究における最初のマイルストーンは確実にクリアできていると判断できるため。
|
今後の研究の推進方策 |
現在の設計では、モノクローナル抗体が遷移金属錯体に直接結合するとしても、基質に対するアフィニティーは確保できていない。そこで、抗体の結合部位に遷移金属錯体のみならず基質をも特異的に取り込むように工夫必要がある。ただし、反応物阻害や生成物阻害が起こらぬように、反応の遷移状態を安定化できるよう、抗体作製時に免疫分子を設計するのが最善と考える。今後、(金属種や配位子を多様に替えた)種々の遷移金属錯体を用いて抗体を作製し、得られた抗体と遷移金属錯体との複合体の触媒活性と反応における立体制御をモニターする予定である。
|