これまでに種々の遷移金属錯体やキラル配位子を認識するモノクローナル抗体を作製してきた。しかし、パラジウム錯体は水中で配位子の交換反応が起こるため、当該パラジウム錯体を免疫しても抗体は得られなかった。そのため、類似の配位子を有するロジウム錯体に対してモノクローナル抗体を作製し、その抗体の交差反応性を利用して、水中で不安定なパラジウム錯体を抗体に取り込んだ人工金属酵素を開発した。パラジウム錯体を触媒として用いたときのアリル位アミノ化反応を検討した。反応生成物の収率と光学純度を、既知量のアリルベンゼンを内部標準とするキラルHPLCより求めたパラジウム錯体のみを用いたとき、生成物の光学純度は<2%であった。これに対して、当該人工金属酵素を添加した系では、収率の低下が見られたものの、R体が光学純度98 ± 2%で得られることがわかった。この収率低下はモノクローナル抗体がパラジウム錯体に結合することによって基質の触媒への接近が抑制されていることを示しているが、極めて高い光学純度はアキラルなパラジウム触媒周りにキラル環境が誘起されていることを意味している。比較のために牛血清アルブミン(BSA)をパラジウム錯体と混合して添加し、同触媒反応を追跡した結果、収率は低下し、光学純度はパラジウム錯体のみの系と同じ<2%であった。BSAを添加することで触媒反応生成物の収率がパラジウム錯体のみの系に比べて低下しており、抗体添加系と同様に、タンパク質が触媒周りに存在することで反応速度の減少をもたらしていると考えられるが、生成物の光学純度は抗体とBSAの系で全く異なる数値を与えた。これらの結果から、本研究において作製したモノクローナル抗体はパラジウム錯体に結合することで優れた不斉反応場となることがわかった。
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