研究領域 | 高難度物質変換反応の開発を指向した精密制御反応場の創出 |
研究課題/領域番号 |
15H05808
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
真島 和志 大阪大学, 基礎工学研究科, 教授 (70159143)
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研究期間 (年度) |
2015-06-29 – 2020-03-31
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キーワード | 異種4核金属錯体 / 交互共重合 / 連鎖移動反応 / シリカ担持触媒 / 有機ケイ素還元剤 / オレフィンメタセシス反応 |
研究実績の概要 |
本研究は高難度触媒反応の達成を目指して、特異な反応場における触媒反応の開発を進め、従来の均一系触媒(単核金属錯体触媒)と質的に異なる「多核金属クラスター触媒」が有する、複数の同種・異種金属により囲まれた反応場、ならびに「シリカ担持触媒」が有する、シリカなどの担体により囲まれた反応場の反応特性の解明と触媒反応による実践的応用を目的とする。平成29年度は以下の2つの課題に対して集中的に取り組んだ。 課題1:亜鉛と希土類金属を含有する異種多核金属錯体を用いた二酸化炭素とエポキシドの交互共重合反応 課題2:シリカ表面に担持したモリブデンオキソ種を用いたオレフィンメタセシス反応 課題1では、トリ亜鉛クラウンエーテル配位子に希土類金属を内包した異種4核金属錯体が二酸化炭素とエポキシドの交互共重合反応の優れた触媒となるばかりでなく、本錯体の亜鉛と希土類金属を架橋するアセテート配位子が、分子内ならびに配位圏外のアセテートアニオンと非常に速く交換することを活かし、反応系中にアセテートアニオンを添加することにより、交互共重合反応において連鎖移動反応が進行することを見出した。 課題2では、シリカ表面上の水酸基が独立して存在する特殊なシリカを調整し、モリブデンオキソ錯体をシリカ表面上に担持することで、シリカ表面上に均一に単核のモリブデンオキソ種が分散したシリカ担持触媒を合成した。さらに、我々が独自に開発した有機ケイ素還元剤を用いて表面のモリブデンオキソ種を還元することで、室温においてもオレフィンメタセシス反応に高い活性を示す金属種が発生することを見出した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究を達成するにあたり、複数の金属を有する複核金属錯体、およびより実用的なシリカ担持触媒をいかにして反応場として活かすかが非常に重要な課題である。平成29年度の課題1では、亜鉛と希土類金属という異なる2種類の金属を同一分子内に導入することで、二酸化炭素とエポキシドの交互共重合反応において、効率的に二酸化炭素を活性化し、選択的なポリカーボネート合成を達成した。また分子内および配位圏外のアセテートアニオンが素早く交換する特徴を活かし、重合反応系中にカルボキシレートアニオンを添加することで、連鎖移動反応が進行すること、および対応するカルボキシレートがポリマー末端に導入された末端官能基化ポリカーボネートが得られることを明らかにした。 課題2では、オレフィンメタセシス触媒において、高活性な触媒活性種が凝集し失活するという問題点を、シリカ上に触媒活性種を均一に分散させることで解決し、さらに、有機ケイ素還元剤を利用してモリブデンオキソ種を活性化することで、超高活性な触媒が発生し、これまでは400℃といった高温条件が必要であった反応が室温で進行することを明らかにした。 これらの知見は特異な反応場の構築に関する重要な知見であり、今後の触媒反応開発を大いに促進するものであるため、研究は順調に進んでいると判断している。
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今後の研究の推進方策 |
平成30年度も引き続き種々の元素からなる複核金属錯体の合成に取り組むとともに、それらの錯体の示す特異な触媒機能の開発として以下の二つの課題に取り組む計画である。 課題1:有機溶媒に可溶な酸素架橋多核金属クラスター錯体を用いた触媒機能開発 課題2:精密に構造制御された異種多核金属クラスター錯体における異種金属間の相乗効果を活かした触媒機能開発 課題1に関連して、これまでの研究において、酸素架橋多核金属クラスター錯体としてマンガンクラスター錯体を用いた場合、化学的安定性に優れたアミド結合の炭素―窒素結合の切断反応が進行し、高難度反応である中性条件下でのアミド分解反応が速やかに進行することを見出している。通常、多段階の反応工程を経る必要のある官能基変換を直接的、かつ反応の副生成物が極めて少ない条件で達成しており、精密化学品の製造に対して極めて強力な手法であるとして、基質適用範囲が広く高活性な触媒の探索をさらに展開する。本年度は反応機構についての解明を進め、反応速度の測定、反応中間体の単離同定を行う計画である。 課題2に関連して、メタロクラウンエーテル配位子を有する異種金属クラスター錯体のイモータル交互共重合への展開を進める計画である。大環状配位子を用いた選択的な異種金属錯体合成においては、亜鉛―希土類金属、という組み合わせにより特異的に二酸化炭素とエポキシドの交互共重合が進行することが分かった。本知見は、異なる金属の組み合わせを適切に選択することで、単一金属では困難である反応を飛躍的に促進可能である金属間相乗作用の高度利用に向けた基盤的成果である。また、クラスター錯体上のアニオンと外圏に存在するアニオンの素早い交換反応を利用し、イモータル重合への展開を計画している。
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