本研究は高難度触媒反応の達成を目指して、特異な反応場における触媒反応の開発を進め、従来の均一系触媒(単核金属錯体触媒)と質的に異なる「多核金属錯体触媒」が有する、複数の同種・異種金属により囲まれた反応場、の利用による触媒反応の実現を目的とする。最終年度は、二核や四核の多核マンガン錯体を触媒として用いた、化学的安定性に優れたアミド結合の炭素―窒素結合の切断反応による、中性条件下での第3級アミド分解反応において、反応を加速するための配位子検討を行い、含窒素系配位子が反応速度に与える影響を明らかにした。さらに、アミド分解反応の条件に対し、カリウム塩を添加することで触媒活性が劇的に向上し、基質適用範囲が広く高活性な触媒として作用するマンガンーカリウム異種多核錯体が反応中で生じていることを見出した。 さらに、カルボキシラート配位子により架橋された多核金属錯体が示す触媒特性に関して検討を進める中で、カルボキシラート配位子、ならびに酸素架橋により形成される6核錯体の中で、セリウムからなる6核錯体が青色LED光の照射により光触媒として作用し、セリウム-カルボキシラート結合の均一開裂によってカルボキシルラジカルを与えること、また、酸素雰囲気下、脂肪族カルボン酸を用いて青色LED光を照射すると、触媒的な脱炭酸-酸素化反応がすみやかに進行することを明らかにした。従来の光触媒は単核の貴金属錯体が中心として用いられてきたが、今回、多核構造を用いることで、卑金属においても有用な光触媒となりうることを実証した。また、オルトトルイル酸などの安息香酸誘導体を用いた場合には、カルボキシルラジカルが生成した後に水素引き抜き反応が進行し、最終生成物としてラクトンを与えるなど、有機合成上、有用な分子変換反応に応用可能であることを明らかにした。
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