研究実績の概要 |
本研究においては、ポリ(キノキサリン-2,3-ジイル)(以下PQXと略記)をキラル骨格とする新しい高分子触媒の創製に基づいた、不斉増幅を伴う不斉合成反応の開発を行った。 (1)PQXへの新規触媒ペンダントの導入に基づいた高分子キラル触媒創製:PQXbpy, PQXmdpp、およびPQXanhcAuを新たに合成し、様々な反応に用いた。PQXbpyは 銅触媒不斉シクロプロパン化反応において高い選択性を与え、本研究で新たに開発したα-アミノボロン酸の分子内カップリング反応をエナンチオ収束的に進行させた。求核性のp-アミノピリジル基を導入したPQXmdppは不斉求核触媒反応において高い選択性と触媒活性を示し、再利用が極めて容易な実践的触媒となることを明らかにした。 (2) キラルゲストを不斉源とする不斉増幅反応の開発:分子中に一切のキラル置換基を持たず、ボロン酸部位を有するアキラルaPQXboh/phosの溶液に対し、キラルアミノアルコールをホウ素に対して1当量加えたところ、効率的な左巻きらせん誘起が進行した。これを触媒として用いることで90%eeを超える高い選択性で不斉シリルホウ素化が進行した。33%eeのアミノアルコールを用いた場合でも87%eeが得られ、らせん誘起がmajority-rule効果による不斉増幅を伴うことが明らかとなった。 (3) キラル溶媒との非結合性分子相互作用を不斉源とする不斉反応の開発:分子中にキラル置換基もキラルゲスト受容部位も持たないaPQXphosを(R)-リモネンに溶解したところ、完全な右巻きらせん構造が形成されることを見出した。この触媒を用い、リモネン中で不斉クロスカップリング反応を行なったところ、エナンチオマー比99:1で反応が進行した。これは、高分子らせん構造をキラル溶媒で完全制御した初めての例であり、キラル溶媒を不斉源として達成された初めての高選択的不斉反応である。
|