研究領域 | 海洋混合学の創設:物質循環・気候・生態系の維持と長周期変動の解明 |
研究課題/領域番号 |
15H05818
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
安田 一郎 東京大学, 大気海洋研究所, 教授 (80270792)
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研究分担者 |
長谷川 大介 国立研究開発法人水産研究・教育機構, 東北区水産研究所, 主任研究員 (10624728)
井上 龍一郎 国立研究開発法人海洋研究開発機構, 地球環境観測研究開発センター, 主任研究員 (80624022)
柳本 大吾 東京大学, 大気海洋研究所, 助教 (40260517)
藤尾 伸三 東京大学, 大気海洋研究所, 准教授 (00242173)
田中 雄大 国立研究開発法人水産研究・教育機構, 東北区水産研究所, 任期付研究員 (10750391)
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研究期間 (年度) |
2015-06-29 – 2020-03-31
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キーワード | 海洋混合学 / 乱流 / 鉛直混合 / 海洋循環 / 海洋物理学 / 海洋観測 |
研究実績の概要 |
本計画研究班で培ってきた鉛直混合の観測手法を発展させ、新しい観測システム・手法を導入し、日本の誇る海洋観測網を活かして観測を展開し、鉛直混合を通じて繋がる新しい学術の創出に貢献する。具体的には、通常観測に用いられるCTDに高速水温計を取り付け、鉛直混合強度を求める手法を開発し、気象庁・水産関係機関等の様々な観測でデータを収集する。中深層循環に関わる鉛直混合の役割を明らかにし、親潮・黒潮を通じて日本周辺海域へ輸送される栄養塩等の物質輸送量を評価する。昇降しながら自在に動いて自動観測する水中グライダに、乱流計と超音波流速計を搭載し、多様な鉛直規模をもつ現象をつなぐ観測ができる集中観測システムを構築し、鉛直混合強化過程を明らかにする。また、自動昇降フロートに電磁流速計または鉛直混合センサを取り付けた漂流型フロート等による長期時系列観測を行い、鉛直混合の時間変動を明らかにする。 2017年度は、1)高速水温計を用いた乱流強度観測の適用可能範囲を明らかにし、気象庁観測船凌風丸・啓風丸での観測を継続・展開した。これまで得られた観測データを用いて、北西太平洋における乱流の3次元分布を明らかにし、数値モデルに組み込まれている遠方場と背景場の改善方法を提案した。2)高速水温計・電磁流速計を搭載したフロートを展開し、乱流強度の季節変化を明らかにし、ファインスケールパラメタリゼーションの改良を提案した。3)乱流計搭載グライダー・乱流計などを用いた観測を親潮・津軽暖流前線域・津軽海峡で行い、前線域での2重拡散対流や跳水現象による鉛直拡散の強化を指摘した。4)白鳳丸KH-17-5航海を他班と共同で実施し、日本周辺での鉛直混合分布を明らかにした。これらの他、2016 年までに観測された、慶良間海裂や伊豆海嶺黒潮での観測の解析を進め、これらの海域での乱流強化過程や栄養塩輸送について明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
CTD取り付け型高速水温計観測が、乱流の弱い中深層の観測で有効であることを明らかにし、気象庁凌風丸・啓風丸、みらい、白鳳丸、新青丸などのデータに適用することにより、北西太平洋での鉛直混合の3次元分布像とモデルに与える分布像が明らかになりつつある。加えて、慶良間海裂や伊豆海嶺、黒潮などでの集中的な観測によって、強い乱流を引き起こす過程と栄養塩輸送に及ぼす影響が明らかになった。グライダやフロートに取り付けた微細構造センサによる観測手法と時系列観測について進展が見られた。今後の研究展開に寄与する多くのことが明らかとなり、想定以上の成果が上がっていると評価される。 1)CTD取り付け型高速水温計観測手法開発・乱流広域観測:手法についての論文を公表するとともに、センサの較正法、乱流パラメタリゼーションとの比較を通じて新型乱流計AFPO7の実用化を進めた。気象庁凌風丸・啓風丸による13航海、白鳳丸KH-17-3(6/23-8/7)での亜寒帯横断、白鳳丸KH-17-4(8/12-10/5)での亜熱帯横断、おしょろ丸北洋航海(6/17-8/2天皇海山での係留系揚収)での乱流観測を実施する。新青丸KS-17-5(6/18-7/1)、白鳳丸KH-17-5(10/17-12/18)、新青丸KS-18-1(2018/1/18-30)を実施した。2)乱流計・超音波流速計搭載水中グライダ集中観測システム開発・観測:新規グライダSeaExplorer観測を、新青丸KS-17-5、白鳳丸KH-17-5航海において実施し、乱流データ処理手法を確立した。3)自動昇降フロート型乱流観測手法開発・観測:新青丸KS-17-9航海における電磁流速計・高速水温計搭載フロートの投入・観測及び2016年度取得データの解析を行った、4000mまで計測可能な乱流センサ付深海フロートの解析手法の開発を行った。
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今後の研究の推進方策 |
高速水温計観測を展開するとともに、高精度化し適用範囲(海面・海底付近、強・弱乱流域)を広げることによって、より広域・詳細な観測データに基づく3次元混合分布を明らかにし、海洋循環・物質循環への影響を明らかにする(気象庁凌風丸・啓風丸による12航海、新青丸KS-18-5(5/7-17)、ロシア船航海(7/23-9/14)、白鳳丸KH-18-6(インド洋10/23-12/30)、みらい航海での亜寒帯K2定点での係留系に取り付け長期観測(7/18-1年間)、おしょろ丸ベーリング・北極航海(6/14-7/23))。グライダやフロートに取り付けた乱流・流速センサを用いて行う集中観測から、混合強化過程とその物質輸送を明らかにする。ロシア船航海西部ベーリング海・アナデイール湾・亜寒帯海域における物理観測の実施(7/23-9/14)。乱流計・超音波流速計搭載水中グライダ集中観測システム開発・観測:Slocum及びSeaExplorerグライダ観測を、若鷹丸WK1805A(5/11-5/23)・WK1807A:(7/12-7/24)・WK1808F(8/22-9/2)において実施し、データ処理手法特にADCP解析手法を確立する栄養塩供給に関わる混合の役割を明らかにする。自動昇降フロート型乱流観測手法開発・観測:新青丸KS-18-4航海における電磁流速計・高速水温計搭載フロートの回収・観測及び既取得データの解析、4000mまで計測可能な乱流センサ付深海フロートの開発・計測手法。作業部会WG2と連携し、黒潮・親潮海域での乱流による鉄や栄養塩鉛直輸送を取りまとめる。18.6年周期潮汐振動に関する観測事実を整理し、WG3を通じて長周期変動の仕組みを明らかにする。
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