研究領域 | 海洋混合学の創設:物質循環・気候・生態系の維持と長周期変動の解明 |
研究課題/領域番号 |
15H05819
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研究機関 | 国立研究開発法人海洋研究開発機構 |
研究代表者 |
増田 周平 国立研究開発法人海洋研究開発機構, 地球環境観測研究開発センター, グループリーダー (30358767)
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研究分担者 |
長船 哲史 国立研究開発法人海洋研究開発機構, 地球環境観測研究開発センター, 技術研究員 (50638723)
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研究期間 (年度) |
2015-06-29 – 2020-03-31
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キーワード | 海洋 / 鉛直混合 / データ同化 / 気候変動 / 船舶観測 |
研究実績の概要 |
前年度までに完成させた乱流エネルギー散逸率εを直接データ統合できる機能を持つ四次元変分法データ同化システムを用い、さまざまな海洋環境再現実験を行い、データセットを作成した。特に線形推定法を用いた物理パラメタの最適化実験を行い、モデルによる気候場の再現性を大幅に改善することに成功した。これは、データ統合実験における初期推定場の改善に対応する。この結果をもとにした比較実験を行い、潮汐鉛直拡散パラメタを制御することの有効性を確認できた。さらに、新たに地熱を表現するモデルコンポーネントを導入し、深層の水塊や循環に対するインパクトを評価し、その重要性を確認した。また、εを同化するうえで考慮すべき補正項についての検討を当新学術課題の他研究班と緊密に連携しつつ、進めた。これらは、より信頼性の高いデータ統合プロダクトの作成につながる重要な成果と言える。 具体的には、四次元変分法を用いたデータ統合実験に先立ち、モデルの初期推定場と観測の一致性をグリーン関数法を用いた物理パラメタの最適化によって高めることができた。また、εに関して、モデルの値と観測値を比べると、概ね線形の関係にはあるものの、モデルの方が1桁以上大きい傾向があるという一般的な問題に関して、観測されたεが、モデルのεと同等のものかどうかについて乱流理論に基づき検討し、観測およびモデルにおけるεの統計量を統一的に解釈する手がかりを得た。後者はこれまでとことなるアプローチで次年度以降詳細を詰めて結果を公表していきたい。 本研究課題で得られた成果は論文や、学会発表、公開データセットの更新などを通じて発信している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
従来用いられてきた水温・塩分等の観測データに加え、乱流エネルギー散逸率εも統合することができる四次元変分法データ同化システムを完成させた。このシステムを用いて、実際にデータ統合実験を行い、システムの動作を確認するとともに、統合データセットを作成し、観測データとの比較を行った。当初の年次計画に沿って、概ね順調に進展している。今年度はさらに、より信頼性の高い統合データセットを作成すべく、グリーン関数法を用いた物理パラメタの最適化を通じた初期推定場の改善、地熱導入によるベースモデルの精緻化の検討、εを同化する際に考慮すべき課題の検討を進めてきた。これらの知見を活かして、データ統合実験のシステムや設定を更新することで、統合データセットの信頼性向上につながり次年度以降の進展を加速させることが期待できる。
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今後の研究の推進方策 |
完成したデータ統合システム、データセットを観測データや過去の知見と比較し科学的検証を進める。また、他計画研究の成果を反映させたリバイスなど、新学術領域として、多様な切り口からデータの検証を実施し、「海洋混合学」の大きな目的の一つである、混合と循環の関係を解き明かしていく。 最適化の結果として得られた海洋環境再現データセットは、深層循環・子午面循環メカニズムの解明、気候変動現象と海洋亜表層循環の力学的リンクの探索、深層昇温をはじめとする海洋の中長期変動のプロセス研究など、近年注目されている海洋内部の様々な科学的問題に、これまでとは異なる視点から新たな知見を提供することができる。また、最適化された鉛直混合の分布はモデルの表現誤差を含むものの、観測を統合した一つのマッピング結果であり、生物化学変量(溶存無機炭素など)の長期変化の見積もりなどにも応用可能である。これらのアドバンテージを最大限生かし、海洋循環、海洋環境変動における鉛直混合の役割を詳らかにするためのブレークスルーにつなげる。
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