研究領域 | 海洋混合学の創設:物質循環・気候・生態系の維持と長周期変動の解明 |
研究課題/領域番号 |
15H05820
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
西岡 純 北海道大学, 低温科学研究所, 准教授 (90371533)
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研究分担者 |
平譯 享 北海道大学, 水産科学研究院, 准教授 (70311165)
小畑 元 東京大学, 大気海洋研究所, 教授 (90334309)
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研究期間 (年度) |
2015-06-29 – 2020-03-31
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キーワード | 北太平洋 / 親潮上流 / 栄養物質循環 / 西部北太平洋 / HNLC海域 / 基礎生産 / 植物プランクトン / 微量元素 |
研究実績の概要 |
本計画班では、親潮源流域の混合過程を含めた西部北太平洋における栄養物質の3次元循環像を明らかにし、基礎生産過程とのリンケージを解明することを目指す。下記にH28年度の研究活動の実績を記す。 栄養物質の3次元循環像の構築については、これまでに親潮源流域である東カムチャツカ海流域のサンプルの分析、北太平洋の溶存鉄データセットを整備し、オホーツク海やベーリング海などの北方の縁辺海が、西部北太平洋の栄養物質(鉄・栄養塩)循環に果たす役割を抽出してきた。特に親潮源流域から栄養物質を広く北太平洋に運ぶ北太平洋中層水(North Pacific Intermediate Water:NPIW)の役割の重要性が明らかになってきた。 これらを証拠づける為に、水塊の水平移送と混合を検討するトレーサーとしてNd同位体比測定体制を整え、Nd同位体比(143Nd/144Nd)の測定を、北太平洋の広範囲にわたって実施した。西経170度線上において、赤道域からベーリング海までの表面海水中のNd同位体比分布を調べた結果、表面海水の水塊構造に対応して同位体比が変化していることが示された。東シナ海において大陸地殻の影響を受けた表面水の影響が黒潮・黒潮続流により、西経170度付近まで及んでいる可能性があることが示された。さらに、東経165°線上の南北測線における鉛直断面分布、北緯47°線上の東西測線における鉛直断面分布を明らかにし、アリューシャン列島やカムチャッカ半島を起源とするマントル由来物質が付加される過程を調べる上で重要な情報を得た。 さらに、光学観測機器を用いて衛星による基礎生産推定アルゴリズムの高度化、基礎生産制御過程の検討を実施し、西部北太平洋の基礎生産の季節変動の特徴を研究対象海域毎に抽出した。今後、基礎生産の季節変動を、栄養物質の3次元循環像と結びつけて解釈していく知見を整えた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究で目指す栄養物質の3次元循環像の構築に着手し、順調にデータの解析とが進められている。Nd同位体分析も確立され、データ分析が順調に進められている。また基礎生産アルゴリズムも構築し、基礎生産過程の変動解析を予定より前倒しで進めることができている。
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今後の研究の推進方策 |
今後、親潮源流域における栄養物質の下層からの供給過程の定量評価に関しては、西部北太平洋の鉄・栄養塩の3次元循環像の構築に向けてさらなるデータの整備と解析、モデルとの連携を進める。また、千島海峡、アリューシャン海峡、天皇海山付近等、混合の強いと考えられる鍵となるエリアの栄養物質のデータを、混合を含めた物理データと一緒に解析することで、物質のフラックスを見積もることを試みる。 栄養物質の起源と水平移送過程に関しては、オホーツク海におけるNd同位体比の分布についても今後明らかにして行く。また、海洋鉛直混合がNd同位体に及ぼす影響を解析するためにはNd濃度についての情報が必要となる。今後はNd濃度の鉛直分布も同時に明らかにしていく。 栄養物質循環と基礎生産過程のリンケージに関しては、西部北太平洋やベーリング海などにおいて、可能な限り、基礎生産量および光学データの取得を行い、衛星を使った基礎生産量推定アルゴリズムをより精度の高いものに改良する。今年度得られたクラスター分析による基礎生産力phenologyの地理的分布を、栄養物質の地理的分布や海流系・循環と比較することにより各クラスターの意味付けを行ない、栄養物質循環像と基礎生産過程のリンケージを明らかにする。最終的には、これら全体を融合し、他計画班および公募班と連携やワーキンググループ2での議論を進め、北太平洋域の基礎生産量を制御するメカニズムを抽出し、栄養物質の3次元循環像から説明できる西部北太平洋の生物生産メカニズムの定量的な理解を目指す。
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