研究領域 | 海洋混合学の創設:物質循環・気候・生態系の維持と長周期変動の解明 |
研究課題/領域番号 |
15H05823
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
伊藤 進一 東京大学, 大気海洋研究所, 教授 (00371790)
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研究分担者 |
志田 修 地方独立行政法人北海道立総合研究機構, 水産研究本部釧路水産試験場, 部長 (00568420)
上村 泰洋 国立研究開発法人水産研究・教育機構, 中央水産研究所, 任期付研究員 (00751471)
小松 幸生 東京大学, 大学院新領域創成科学研究科, 准教授 (30371834)
白井 厚太朗 東京大学, 大気海洋研究所, 助教 (70463908)
船本 鉄一郎 国立研究開発法人水産研究・教育機構, 北海道区水産研究所, グループ長 (80443381)
高橋 素光 国立研究開発法人水産研究・教育機構, 西海区水産研究所, 主任研究員 (80526989)
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研究期間 (年度) |
2015-06-29 – 2020-03-31
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キーワード | 水産学 / 行動学 / モデル化 / 分析科学 / 海洋生態 |
研究実績の概要 |
潮汐振動などに起因する海洋鉛直混合の長期変動が、水産資源変動に与える影響を調べるため、強い潮汐混合が存在する海域を利用する魚種に注目し、耳石日輪解析による成長変動の復元と、耳石の酸素安定同位体分析による仔稚魚の環境履歴復元に取り組んだ。具体的には、中央水産研究所に保管されていた春季のマサバ太平洋系群稚魚の2004年以降の11年間の耳石標本を10個ずつを抽出し、酸素安定同位体比δ18Oを測定した。その結果、耳石δ18Oは耳石半径が大きくなるとともに高い値を示した。マサバ稚魚の日齢、平均耳石成長率、耳石δ18Oを用いて主成分分析を実施した結果、第1主成分は日齢が高いと平均耳石成長率もδ18Oも高くなる傾向を示し、第2主成分は低い日齢でも平均耳石成長率が高い個体が存在することを示した。同データにクラスター解析を実施した結果、再生産成功率の高い年では、早期に孵化し、成長が良く、耳石δ18Oが高い(すなわち経験水温が低い)のに対し、再生産成功率の低い年では、孵化日が遅く、成長が悪く、経験水温が高いことが判明した。この結果の意味を調べるため、公募研究課題で測定したマサバ仔魚耳石測定データを合わせた解析を行った。 上記のデータセットより、平均的な耳石半径と耳石質量の関係を導き出し、耳石全体で測定したδ18Oから10μm毎の耳石δ18O蓄積量を算出し、マサバ仔稚魚の経験水温を推定した。その結果、標準体長20mm以降は経験水温が成長とともに低くなる結果が得られた。耳石の日輪毎の成長幅を用いたクラスター解析も実施し、実際に成長の良いマサバ仔魚を抽出した結果、稚魚期の耳石δ18Oが高い値を示し、低水温域に侵入していることが確かめられた。したがって、初期成長が良い個体が成長が良いためにより積極的に低水温域に侵入し、高栄養価の餌料を得ることができるという正のスパイラルが働いていることが示された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
マサバ太平洋系群の耳石酸素安定同位体比の測定方法が確立され、分析が進むとともに、耳石成長解析結果との比較研究を推進することができた。さらには、その結果から、仔魚期に高成長を示したマサバが、稚魚期に低水温域に侵入し、餌料環境が良くなるために、さらに成長を加速することが可能になる正のフィードバックが働いている可能性を示すことができた。この点については、予想以上の成果があがっている。 マサバ以外に潮汐混合の強い海域を利用する魚種として、マアジ、スケトウダラについても耳石標本の整理、耳石酸素安定同位体比測定方法の開発を進めることができた。また、耳石成長解析も進み、海洋環境との対比も進んでいる。一方、マアジについては耳石酸素安定同位体分析と組み合わせて解析する成長-回遊モデルの構築が途中であるが、マサバについては、成長モデルについて必要となる呼吸代謝量の測定実験が急速に進み、海外研究者との共同研究もあわせ、世界最大のマサバ呼吸代謝量データベースを作成することができ、予想以上に進展した。すべての項目を総合的に判断して、おおむね順調に進展していると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
マアジ、スケトウダラの耳石酸素安定同位体比の分析を進めるとともに、両魚種の耳石成長と海洋環境との関係解析を進める。 マアジについては、耳石全体ではなく日輪構造に沿った耳石掘削を試み、個体の耳石酸素安定同位体蓄積履歴の復元に取り組む。 マサバについては、成長-回遊モデルの開発を進め、モデルの中で計算される耳石への酸素安定同位体蓄積と分析結果との比較を進めることができるように取り組む。 これらの作業と並行して、成長-回遊モデルの基盤となる低次栄養段階生態系モデルの開発を継続して進める。
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