研究領域 | 海洋混合学の創設:物質循環・気候・生態系の維持と長周期変動の解明 |
研究課題/領域番号 |
15H05824
|
研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
日比谷 紀之 東京大学, 大学院理学系研究科(理学部), 教授 (80192714)
|
研究分担者 |
丹羽 淑博 東京大学, 大学院教育学研究科(教育学部), 特任准教授 (40345260)
吉川 裕 京都大学, 理学研究科, 准教授 (40346854)
田中 祐希 東京大学, 大学院理学系研究科(理学部), 助教 (80632380)
|
研究期間 (年度) |
2015-06-29 – 2020-03-31
|
キーワード | 内部重力波 / 潮汐流 / 海底地形 / 非線形相互作用 / 乱流パラメタリゼーション |
研究実績の概要 |
本年度は、現在までに定式化してきた海洋の中・深層での乱流混合のパラメタリゼーションに続き、海底凹凸地形から鉛直上方に形成される海洋底層での乱流混合のパラメタリゼーションに注目し、乱流散逸率の鉛直減衰スケールのパラメータ依存性を取り入れた定式化を行った。さらに、こうして定式化された海洋の中・深層、底層における乱流パラメタリゼーションの有効性を検証するため、伊豆-小笠原海嶺近傍海域において投下式乱流計VMP-Xを使用した乱流観測を行った。 また、インドネシア多島海における最も顕著な乱流ホットスポットであることが数値実験から示されているハルマヘラ周辺海域で昨年度実施した乱流観測の結果の解析を進め、同海域における鉛直乱流混合の定量的な把握とそのパラメタリゼーションを行った。さらに、同時に実施したCTD、LADCPを使用した観測から、この鉛直乱流混合によってインドネシア通過流の水塊特性が変質していく実態を初めて明らかにすることができた。 一方、海洋表層の混合過程については、ラングミュア循環の駆動機構である風波と水平流との相互作用に注目し、昨年度までの数値モデルにさらに改良を加えて数値実験を行うことで、その新たな実態を明らかにした。また、台風通過に伴う海洋表層での応答、例えば、励起された鉛直乱流混合による海面水温の低下や、表層下へ内部重力波を送り込むエクマン湧昇の励起などを理論的に考察し、それぞれが台風の移動速度や風速、最大風速半径にどのように依存するかを明らかにした。この他、海洋内部の鉛直乱流混合と海洋熱塩循環との力学的な関係についても数値実験を行うことによって考察し、従来の「鉛直混合が強いと海洋熱塩循環も強化される」という解釈の誤りを指摘するとともに、詳細な力学的解析を通じて「強い鉛直混合は傾圧地衡流場の変化を通して海洋熱塩循環を強くも弱くもする」という新たな解釈を提示した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
昨年度に実施した伊豆-小笠原海嶺上における乱流観測のデータの解析を進めたところ、使用していた投下式乱流計VMP-Xおよび観測船「啓風丸」付属の測器にそれぞれ不具合が生じていたことが判明したため、取得したデータの一部が使用できない事態となった。他のデータを基にした数値実験を実施することはできたが、研究代表者の理論的予測の検証をさらに進めるためには、再度、次年度に同海域での観測を実施する必要が生じた。 海洋表層に関しては、新たに開発した数値モデルを使用することにより、ラングミュア循環の駆動機構に新たな知見を加えるとともに、台風通過に伴って励起される鉛直乱流混合やエクマン湧昇流の様々なパラメータへの依存性を理論的に明らかにした。この他、海洋内部の鉛直乱流混合と海洋熱塩循環との力学的関係についても再考察を行い、これらを通じて、海洋表層における乱流混合の素過程とその定式化、さらにそれが大規模な海洋現象に及ぼす影響の一端を明らかにすることができた。
|
今後の研究の推進方策 |
現在までに定式化してきた海洋の中・深層および底層における乱流パラメタリゼーションの式の有効性を検証するため、顕著な内部波の励起源であり、かつ、高解像度の海底凹凸地形データが存在する伊豆-小笠原海嶺上で、投下式乱流計VMP-Xを用いた乱流観測を続行するとともに、観測から得られた知見を適宜フィードバックすることにより、乱流パラメタリゼーションの精度を向上させていく。 また、世界気候にも大きな影響を与えるインドネシア多島海での乱流観測を続行する。具体的には、インドネシア多島海西部海域において、海面から海底直上までの乱流観測を行い、昨年度に行ったインドネシア多島海東部海域での観測結果と合わせて、インドネシア多島海における潮汐混合の実態を明らかにしていく。 海洋表層に関しては、今後さらなる素過程の解明とその定式化を進めつつ、表層乱流混合が台風などの大規模な現象に及ぼす影響、さらに、海洋物理過程のみならず、海洋生物/化学過程に及ぼす影響を定量的に把握していく予定である。
|