研究領域 | 核-マントルの相互作用と共進化~統合的地球深部科学の創成~ |
研究課題/領域番号 |
15H05827
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研究機関 | 岡山大学 |
研究代表者 |
芳野 極 岡山大学, 惑星物質研究所, 准教授 (30423338)
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研究分担者 |
西原 遊 愛媛大学, 地球深部ダイナミクス研究センター, 准教授 (10397036)
平賀 岳彦 東京大学, 地震研究所, 准教授 (10444077)
太田 健二 東京工業大学, 理学院, 准教授 (20727218)
久保 友明 九州大学, 理学研究院, 准教授 (40312540)
安東 淳一 広島大学, 理学研究科, 教授 (50291480)
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研究期間 (年度) |
2015-06-29 – 2020-03-31
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キーワード | 熱伝導 / 電気伝導度 / 拡散 / レオロジー / 変形実験 / 高圧 |
研究実績の概要 |
本研究は、核―マントルの相互作用と共進化の動的過程を高圧実験に基づいて解明することを目的としている。本年度は核・マントル物質中の熱の移動、拡散による元素移動の実験を推進し、昨年度末に本科研費で高エネルギー研究所PF-AR, NE7Aビームラインに導入したD111型ガイドブロックを用いて下部マントル条件での変形実験を開始し、下部マントル最上部の圧力条件での変形実験を実現した。下部マントルのブリッジマナイトのアナログ物質MnGeO3ペロフスカイトのすべり系はブリッジマナイトのすべり系と少し異なるが、下部マントル最上部において水平流動が卓越しているとするTsujino et al. (2016)の結論を支持するものであった。変形の素過程の研究から特定の結晶面に平行な粒界が一般粒界と比べて3倍程度すべりやすいことが判明し、この粒界がマントル流動に伴う鉱物の結晶軸配向を決めるならば地震波速度異方性の深度分布を説明できることを示した(Maruyama and Hiraga 2017b)。 熱輸送の研究では、地球のコアに含まれる軽元素の有力候補である硫黄が鉄の電気伝導度に与える影響を調べた(Suehiro et al., 2017)。約100 GPa, 2500 Kでhcp構造のFe-Si-S合金を合成し、その電気伝導度を室温高圧下で測定することにより、Sの電気伝導度へ与える影響を定量的に評価した。また、下部マントルの主要構成鉱物であるブリッジマナイトの格子熱伝導率が鉄、アルミを含むんでもMgSiO3組成のブリッジマナイトと大きな差がないことを明らかにした(Okuda et al., 2017)。 元素移動の研究では、核―マントル境界で核のタングステン(W)はブリッジマナイトを主体とする岩石中に粒界拡散によって、マントル物質のW同位体が改変される可能性を示唆した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
コアの軽元素候補である硫黄が鉄の伝導度に与える影響を初めて明らかにした。また、マントル主要鉱物の熱伝導率測定も系統的におこない、ブリッジマナイトやフェロペリクレースの熱物性に関する理解に進展が見られる。当初の計画は着実に遂行していると評価することができる。 当初の計画どおり、D111型ガイドブロックの導入と立ち上げは順調に進んでおり、これを用いて常圧では安定に存在しない内核の主要構成物質とされるhcp鉄の高温高圧変形実験も可能となり、順調に実験を開始しているところである。また、マントル遷移層条件下においてリングウッダイトの変形実験を行い、冷たい遷移層スラブにおける流動則および強度を明らかにした。下部マントル条件でのパイロライト物質の多相粒成長カイネティクスに基づいて、変形の激しいスラブ周辺やD”層では転位クリープによる変形が卓越し、地震波異方性の存在と調和的であることが分かった。 上部・下部マントル内の地震波速度異方性深度分布を拡散クリープ下での結晶軸選択配向で説明できることを示した。粒成長と拡散クリープ速度を決定する拡散メカニズムが同一であることを実験から示した。上部・下部マントル物質中の拡散プロセスをよく模擬していると考えており、その実験事実を元に、マントル対流下での粒成長とそれによる粘性率変化を考察した。予察的な結果では、マントル内の粘性率そのものが、クリープ下での粒成長を考慮することで説明できることが分かり、当初の研究目的を達成しつつある。 全体の研究の進展を考慮すると研究はおおむね順調に推移している。
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今後の研究の推進方策 |
コア、マントル物質両者において、高圧かつ高温での熱伝導率測定はまだ実現していないので、技術開発によって高温高圧下での熱物性測定技術の確立が今年度の研究課題である。 レオロジーの研究では、マントル対流下での、粒径-粘性率変化の詳細を推定する。特に、我々のモデルによると、マントル下降過程よりも上昇時に粘性率が上がることが予想され、それがマントル対流プロセスと整合的であるのかの検証を行う。また、粘性率変化と熱輸送過程がどのようにカップリングするのかを調べる。 放射光とD-111型高圧変形装置を組み合わせた実験技術をより発展させ、遷移層から下部マントル条件下においてせん断変形場における大歪みの変形実験が定量的に行えるようにする。高圧相転移やポストペロフスカイト相転移に関して、相転移と変形の相互作用を明らかにし遷移層からD”層にいたるプレートの相転移と変形挙動を検討する。また下部マントルの粒径進化とレオロジーに関して、海洋地殻成分との粘性コントラストおよびブリッジマナイトーペリクレイス2相系での粘性変化について、多相粒成長カイネティクスに基づき考察する。17GPa以上の高圧下での変形実験をすすめ、hcp鉄のレオロジーの温度効果、圧力効果を解明することを目指す。 核ーマントル境界における親鉄元素の珪酸塩鉱物中の粒界拡散実験をタングステン、レニウム以外の元素についても引き続き行う。
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