計画研究
計画研究A01-2(構造物性班)では、地球深部条件において核とマントルを構成する物質の物性を測定し、またその物性の根源である構造を調べることが計画されている。さらに、他の計画研究と連携し、地球深部の元素循環プロセスや内部モデルの構築に寄与することになっている。今年度の実績の概要を述べる。まず、核の物質については超音波法を用いてFe-Ni系メルトおよびFe-Ni-C系メルトの弾性波速度を測定することに成功した。また、X線吸収法により、Fe-FeO系メルトの密度を測定した。加えて、bcc構造の鉄に関して縦波と横波の速度を測定した。これら地球中心核を構成する候補物質の物性は、地震波などの地球物理観測によって得られる内部構造モデル(物理モデル)と対比することで、物質モデル(化学モデル)を構築することができる。続いて、地球深部の元素循環、特に軽元素循環に関する研究成果としては、水を地球深部へと運びうる物質として、23 angstrom相と名付けた新たな高圧含水相を見いだした。これはAlを多く含み、沈み込むプレートで重要な含水相だと考えられる。また、lawsonite、含水wadsleyite、含水ringwooditeといった高圧含水相の状態方程式を決定した。さらに、水素に続いて重要な軽元素である炭素については、天然のダイヤモンド中に見られる包有物の鉱物学的研究を行った。また、硫黄を含む物質については、硫酸塩鉱物の相平衡実験をおこない、下部マントル中での安定性を議論した。地球深部で生成するマグマについては、深部炭素循環とも関係があるK2CO3やMgCO3-SiO2系での融解実験をおこない、地球深部条件で生ずるマグマの組成変化などを明らかにした。これらマントル中に存在しうる結晶やマグマの物性、および地球深部での安定性などの研究から、地球内部での元素循環を考察することが出来る。
2: おおむね順調に進展している
初年度であったH27年度は、代表者・分担者それぞれが本研究課題の予算で実験設備を導入し、立ち上げることを計画していた。主要な設備備品はレーザー、超高温真空加熱炉、ラマン分光器であり、いずれも予定通りに設置されて立ち上げを開始した。今後はシステムとしてセットアップし、核マントル物質の高温高圧力実験に用いられる。また、J-PARC(中性子)およびKEK(放射光)の各施設において、その場観察実験をおこなうための装置類を整備し、予備的実験をおこなって次年度以降の準備を整えた。実験では地球深部メルトの密度や弾性波速度の測定を開始し、徐々に成果が得られつつある。今後は温度・圧力・化学組成の範囲を拡大し、他班と連携して地球深部モデルや分化モデルに関する議論へと繋げることができる。また炭素を含む系での融解実験を下部マントル条件までの圧力下でおこない、マグマの組成変化を明らかにした。この研究に基づき、これから深部マグマの物性測定に取り組むことができるようになった。また、水素、炭素、硫黄といった地球深部で重要な揮発性元素を含む物質に関する研究も進めることができた。特に新しい含水相の発見や下部マントル構成物質の含水状態に関する研究は特筆すべき成果である。これにより、引き続き他の班と連携して地球深部の元素循環を考えるための基礎データを提供できるようになった。地球中心核を構成する金属メルトに関する研究では、密度や弾性波速度の測定データが得られ始めている。今後は特に核の地震波速度構造を研究する観測班と連携し、実験値と観測値の対比によって、核中に含まれる軽元素の量と種類に制約を与えることが出来るであろう。
H28年度に導入を予定している設備備品は電気炉であり、大阪大学に設置される。これはメルトの物性を常圧高温下で測定するための特別仕様となっており、特に金属メルトの物性測定に用いられる予定である。高温高圧力下でのデータは、常圧高温下でのデータと合わせて初めて温度・圧力依存性が確定し、地球深部条件へと適用することができる。しかしながら、地球中心核を構成する鉄ニッケル+軽元素(C, O, Si, Sなど)系の液体については、常圧下での研究が充分進んでおらず我々自身で測定する必要が生じている。本研究によって得られる常圧から高圧力下の密度や弾性波速度といった物性値に基づき、主に地震波観測班の成果と合わせて内部物質モデルの確立に取り組む。地球深部物質(固体)の弾性波速度測定については、ブリユアン散乱法やX線非弾性散乱法などを用いて高温高圧力下での実験を進める。この際、本研究で導入したラマン分光装置は結晶構造や熱力学パラメータの情報を得るのに役立つ。実験で得られる測定値、地球物理観測から得られる観測値、そして第一原理計算による計算値に基づいて地球深部の化学組成に制約を与えることができると考えられる。地表付近からプレートの沈み込みに伴って地球深部へ運ばれた軽元素(H, C, O, N, Si, Sなど)は、核-マントル境界で核と反応すると考えられる。しかしながら、これら軽元素の輸送形態は今なお議論の対象となっている。これまでの我々の研究により、地球深部で安定な含水相や、それらの構造および物性に関する知見が蓄積されつつある。また、炭酸塩、硝酸塩、硫酸塩の高温高圧力下におけるデータも新たに加わりつつある。今後は元素循環や核-マントル反応の研究へと繋げていきたい。
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すべて 国際共同研究 (2件) 雑誌論文 (19件) (うち国際共著 5件、 査読あり 18件) 学会発表 (43件) (うち国際学会 10件、 招待講演 5件) 図書 (1件) 備考 (4件)
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