研究領域 | 核-マントルの相互作用と共進化~統合的地球深部科学の創成~ |
研究課題/領域番号 |
15H05830
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研究機関 | 国立研究開発法人海洋研究開発機構 |
研究代表者 |
鈴木 勝彦 国立研究開発法人海洋研究開発機構, 海底資源研究開発センター, センター長代理 (70251329)
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研究分担者 |
佐野 亜沙美 国立研究開発法人日本原子力研究開発機構, 原子力科学研究部門 J-PARCセンター, 副主任研究員 (30547104)
野村 龍一 愛媛大学, 地球深部ダイナミクス研究センター, 特定助教 (40734570)
下田 玄 国立研究開発法人産業技術総合研究所, 地質調査総合センター, 研究グループ長 (60415693)
佐野 有司 東京大学, 大気海洋研究所, 教授 (50162524)
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研究期間 (年度) |
2015-06-29 – 2020-03-31
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キーワード | 核-マントル相互作用 / タングステン同位体 / 元素分配 / 微小領域分析 / 鉛同位体 / 高温高圧実験 / ハロゲン元素の分配 / 超高精度同位体分析 |
研究実績の概要 |
地球初期の進化を検出するための岩石中の鉛同位体比の高精度測定が可能になった。その測定法を天然試料に適用した共同研究を元素分配班のKumar教授らと行った。 一方,タングステン-182同位体は,親核種のハフニウム-182の半減期が数百万年と短いため,地球初期の化学進化,および,核-マントル相互作用を制約できる同位体として期待されている。この同位体変動の検出には非常に高い精度が必要であるが,様々な工夫の末に分析手法を確立し,多重検出器型ICP質量分析計を用いて,必要な精度のタングステン同位体比が可能になった。そこで,確立した手法をハワイ・ロイヒ島の玄武岩に適用し,タングステン-182の負異常を確認した。分析手法が確立したことから,オントンジャワ海台の玄武岩や中央海嶺玄武岩の分析をスタートした。 核-マントル間のハロゲン元素の分配を調べるため,NanoSIMSを用いて高圧実験で作成した試料の高感度分析を行い,分配に関する情報を得た。また,極微小領域の炭素同位体分析法を確立し,実際の地球科学試料に応用した。 地球深部環境を再現する高温高圧実験においては,技術開発班との共同研究により,核-マントル境界圧力で実験可能な新規変形試験機の開発・高度化を行った。さらに,重水素化により格子体積の増加する”負の同位体効果”を示す含水鉱物ギアナイトについて高圧下中性子回折実験を行い,水素結合の非局在化がこの異常に重要な役割を果たしていることを明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究計画の達成の鍵となるタングステン-182同位体の分析手法が確立され,ハワイ・ロイヒ火山,キラウエア火山玄武岩への適用を始めとして,地球深部からの大規模マントル上昇流に酔って形成されたオントンジャワ海台玄武岩,比較として海嶺玄武岩,地球の初期の頃に形成されたキンバライトの分析を行った。他の岩石では誤差範囲を超えるタングステン-182同位体異常は見られなかったが,ハワイ・ロイヒ火山玄武岩には負の異常が見られた。 一方,地球深部を起源とするマグマが,コア-マントル境界から来たと推定し得る根拠のひとつは,オリビン包有物中のHe同位体比が高いことである。オリビンは地球化学で一般に用いられる液相濃集元素濃度が低く,オリビン中の液相濃集元素からコアとマントルの相互作用を検知するのは不可能である。そこでオリビンの主成分元素である鉄の安定同位体比の測定法の立ち上げに着手した。主成分なので一粒子からの測定も可能と考えている。また,マントル遷移層を構成する鉱物について,高温高圧下における水素同位体分配実験を行い,得られた回収試料についてSIMSによる同位体分析を実施した。 ハロゲン元素や窒素のケイ酸塩への分配を調べるため,高圧実験試料を作成し,NanoSIMSを用いた分析を行っている。また,実際の地球科学試料を用いて,極微小領域における各種元素,同位体を精密に分析するために必要な分析を開始した。その手法を利用して,地球形成期に核に溶け込んだ希ガスの量を推定するため,高圧高温下で金属鉄-ケイ酸塩間希ガス分配実験を行い,実験・分析にかかる様々なテストを行った。さらに希ガス量分析用イメージングカメラの解像度を上げることで分析可能になる段階まで研究が進捗した。
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今後の研究の推進方策 |
タングステン同位体比の高精度分析が可能となったため,地球深部由来の玄武岩に応用する。特に巨大火成活動による火山岩,深部起源の海洋島玄武岩,および,同位体組成的に地球の始原物質であると予測されているルイビルの玄武岩への適用を進める。 水素同位体組成の定量分析を目指して,京都大学伊藤氏と連携し標準試料の合成および定量分析手法の確立を目指す。 NanoSIMSを用いた希土類元素の定量分析法を開発し,高圧下でのケイ酸塩と金属鉄の間の分配係数を推定する。一方,金属鉄については,マルチアンビルを用いた高温高圧での標準試料の合成に挑み,希土類元素が均質な試料を調製する。並行して高温高圧下での重水素の合成実験を行う。
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