計画研究
最新型の高精度安定同位体比質量分析計(MAT253)を新潟大学に購入し、試料導入部に体積を極小にしたシステムを構築した。標準ガス試料を試験的に分析した結果、水素・炭素・酸素・硫黄の同位体比をそれぞれ±0.4、0.06、0.08、0.1‰以下の精度で測定可能となった。また、レーザー・アブレーションによる試料の導入システムの設置を行い、微小領域ガス生成物質の同位体分析方法論を確立しつつある。本研究領域の主な目的である核―マントル間の元素分配と軽元素の同位体分別係数を見積るために高温・高圧条件下で実験を行った。以下に代表的な成果を述べる。1)沈み込むスラブ物質を用いた実験を行い、鉄の強い分別により溶け残り物質の方がメルトよりも密度が低いことが明らかになった。この成果は、部分溶融メルトの密度が十分に高く、下部マントルの低速度層を説明できることを示唆している。2)Fe-C系の出発物質を使用した高温・高圧下での実験を行い、超高圧下のダイヤモンドと炭化鉄メルトの間の炭素同位体分別係数を見積もることができた。3)高圧下における放射光メスバウア分光法を用いたFe3Sの磁性転移とFeOの電子状態を明らかにする実験を行った。4)ペロブスカイトと鉄シリコン合金間とMORBと鉄シリコン合金間の元素分配について レーザー加熱DACを用いて実験を行い、初期地球の温度条件を3000 Kを超える高温環境下である場合、シリコンが鉄中へ多く分配されることが分かった。5)マントル物質の強親鉄性元素分配を明らかにするために天然カンラン岩のX線CTによる三次元撮像を行った。その結果、かんらん石中に白金属元素が包有物として濃集している産状が明らかとなった。以上の結果により、下部マントルや核―マントル境界付近の元素の挙動やリザーバーの存在、さらに元素分配や同位体の分別に関する重要な制約を与えることが期待される。
2: おおむね順調に進展している
本計画研究の重要な目的である、高温・高圧下での元素分配・同位体分別係数を明らかにするために、微小領域の高精度の分析が不可欠である。目的を達成するために最新型の質量分析機を導入し、初年度の内に立ち上げを完了した。試料の量を徐々にへらし、下部マントルや核―マントル境界の温度圧力条件下の実験生成物質の測定を目指す予定であり、おおむね計画通りに進展していると判断できる。
今度の研究方針としては、さまざまな出発物質を使用した高温・高圧下での元素分配・同位体分別実験を行い、核―マントル境界までの温度・圧力条件の変化による分別定数、他元素の二次的効果、液相-固相間または金属メルト-珪酸塩メルト間(液相不混和)の元素分配・同位体分別係数を見積もる。マントルの温度圧力条件は川井型マルチアンビル装置、ピストンシリンダー装置を使用し、より高圧の実験はレーザー加熱ダイヤモンドアンビルセルを用いて行う。実験生成物は電子顕微鏡観察 、軽元素同位体分析、EPMA分析、集束イオンビーム加工(FIB)による断面のTEM観察、LA-ICPMSによる微量元素精密分析を用いて行うことで、上記の目的を達成する。最終的に実験で得られた成果を元に、理論計算班(A04-1)・同位体班(A02-1)と共同で第一原理電子状態計算法を用いた元素・同位体シミュレーションを行うことによって新たな地球深部化学進化モデルを構築する。
すべて 2016 2015
すべて 雑誌論文 (5件) (うち国際共著 3件、 査読あり 5件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (30件) (うち国際学会 16件、 招待講演 3件)
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