研究領域 | 反応集積化が導く中分子戦略:高次生物機能分子の創製 |
研究課題/領域番号 |
15H05836
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
深瀬 浩一 大阪大学, 理学研究科, 教授 (80192722)
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研究分担者 |
真鍋 良幸 大阪大学, 理学(系)研究科(研究院), 助教 (00632093)
下山 敦史 大阪大学, 理学(系)研究科(研究院), 助教 (90625055)
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研究期間 (年度) |
2015-06-29 – 2020-03-31
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キーワード | 中分子 / 反応集積化 / 生物機能制御 / 糖鎖合成 / ワクチン / アジュバント |
研究実績の概要 |
I) 新規アジュバントとワクチンとの複合化による効率的がん免疫療法の実現 既存のリピドA誘導体アジュバントには急性炎症惹起作用という問題点がある。本研究では、新規アジュバントとして有用なリピドAを見い出し、その実用化に向けた高効率合成ルートを確立することを目的とした。本年は,急性炎症惹起作用を起こさず,免疫系を活性化できるリピドAを発見するために,共生菌よりリピドAを単離,構造決定している。さらに,このリピドAの化学合成に着手した.リピドAは、アシル基、リン酸基の構造、数、位置の差異により機能制御が可能であり,現在これらを自在に制御可能な合成ルートで合成を進めている. 一方で、アジュバントとしての効果を既に実証しているα-galの実用化に向け、この糖鎖の大量合成法を開発した.合成ルートの効率化のために、ワンポットでの連続グリコシル化やマイクロフロー系でグリコシル化反応を検討した。その結果,グラムスケールでα-galを合成可能な合成ルートの開拓に成功した.さらに,さまざまなワクチンと合成したα-galの複合化を行った.現在その効果を検証中である. II) N-グリカンのライブラリ合成と時空間制御型ターゲティング分子の開発 N-グリカンのライブラリ合成を目指して収束的な合成を検討した.本年度はさまざまな生命現象に関与するコアフコース含有12糖とバイセクティング型グルコサミン含有8糖の合成を行った.グリコシル化条件を徹底的に検討することで,高収率でこれらの糖鎖骨格を構築することに成功した.現在,これらの糖鎖の利用を視野に入れてスケールアップ合成に取り組んでいる.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
I) 新規アジュバントとワクチンとの複合化による効率的がん免疫療法の実現 本年は,急性炎症惹起作用を起こさず,免疫系を活性化できるリピドAを発見を単離,構造決定した。このリピドAの化学合成も順調に進行しており,ほぼ想定通りの結果が得られている. α-galをアジュバントとして用いたがんワクチンの開発も順調に進行している.集積化の技術を用いることでα-galの大量合成が可能となった.これにより,α-galのアジュバントとしての利用の道が開けた.化学合成したα-galを用いてさまざまながんワクチンとの複合体の合成を達成した.本研究において,化学合成したα-galがアジュバントとして機能することを示したおかげで,がんワクチンとα-galの複合体型中分子を純粋なものとして大量に供給することが可能となった. II) N-グリカンのライブラリ合成と時空間制御型ターゲティング分子の開発 N-グリカンのライブラリ合成を目指して収束的な合成を検討した.本年度はコアフコース含有12糖とバイセクティング型グルコサミン含有8糖の合成を検討し,いずれも合成を達成することができた.これらは分子量2000近い巨大な中分子であり,これらの分子を合成したことは大きなインパクトがる.また本合成戦略は異なるタイプのN-グリカンにも適用可能であり,汎用性の高い合成ルートの確立に成功したといえる.一方で,本研究の目的はこれらの巨大な中分子を効率的に合成し,利用することである.この点に関しては現時点では,まだ課題がある.合成できたN-グリカンは1-2mg程度であり,N-グリカンの大量合成法を確立したとはいえず,今後,合成の効率化が必要である.
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今後の研究の推進方策 |
I) 新規アジュバントとワクチンとの複合化による効率的がん免疫療法の実現 本年,発見した,急性炎症惹起作用を起こさず,免疫系を活性化できるリピドAを速やかに合成する.申請者の研究室では脂質の構造や導入位置,導入数などを変えたリピドAを網羅的に合成する合成ルートを確立しているが、合成に多段階を要する.本研究では合成したリピドAの利用まで視野に入れているので,以下に効率的にリピドAを合成するかが重要な課題である.そこで,触媒を用いた高効率・高選択的アシル化反応の適用といった効率的合成経路の精査、グリコシル化へのフロー反応の適用といった反応集積化技術の活用により、大量合成の達成を目指す。 α-galをアジュバントとして用いたがんワクチンの開発に関しては,すでに,集積化の技術を用いることでα-galの大量合成が可能となった.そこで,今後はα-galの利用に焦点を当てる.まず,ペプチドワクチンMUC1や糖鎖ワクチンSTn,タンパク質ワクチンWT1などと合成α-galを複合化し,これらの機能を検証する.さらに,これらのワクチンをカクテルとして用いることで汎用性の高い膵がんワクチン療法の開発を目指す.一方,α-galをデンドリマーかすることでアジュバント効果を向上させる検討も平行して行う. II) N-グリカンのライブラリ合成と時空間制御型ターゲティング分子の開発 1年目に確立したN-グリカン合成ルートは大量合成という観点では課題が残った.そこで本ルートを改良することで,N-グリカンを数十mgのスケールで合成する.さらに,がんをはじめとするさまざまな疾病と関連するポリラクトサミン構造を含有するN-グリカンの合成にも着手する.加えて,N-グリカンのライブラリー合成においては,酵素を併用した合成も検討する.合成したN-グリカンのイメージングやがんターゲティングなどへの応用も検討する.
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