計画研究
糖鎖は重要な生命現象に関与するが、構造が複雑でかつ多くの場合不均一であるために、分子構造に基づいた生物機能解明が大きな研究課題である。また近年、糖鎖は医薬品のターゲットとして重要視されているが、合成による量的供給が困難であるため、糖鎖医薬はほとんど実現されていない。本研究においては、反応集積化を利用して、糖鎖・複合糖質の高効率合成法を開発し、量的供給手法を確立する。また、申請者らは、合成糖鎖・複合糖質を用いて、それらが免疫アジュバント機能やがんターゲティング能を有することを見出している。そこで本研究では、抗がん剤やワクチンを、糖鎖あるいは複合糖質と複合化することで、機能集積型中分子を創製する。さらには、反応集積技術と機能集積技術を統合することにより、高次生物機能分子の効率的大量合成手法を確立し、糖鎖医薬の実現を目指す。本年度は次の2項目に関して,以下の実績を上げた.(1)アジュバント複合化ワクチンを用いた効率的がんワクチン療法の検討:リピドA誘導体免疫アジュバントの問題点(炎症惹起作用)の克服が見込まれる共生菌由来リピドAに着目し、共生菌由来リピドAの単離・構造決定の後,これを合成し,その機能を細胞系で評価した.また,α-Gal三糖などを新規アジュバントとして創製し、がんワクチンとの複合化技術を確立し,その有効性を確かめた.加えて,自然免疫リガンドと抗原を複合化したワクチンが極めて効果的に抗体産生を誘導することも明らかにした.(2)N-グリカンのライブラリ合成と時空間制御型ターゲティング分子の開発:N-グリカンのライブラリ合成を行った。バイセクティンググルコサミン含有N-グリカン,ポリラクトサミン含有N-グリカンの合成を達成し,さらに,より効率的な糖鎖ライブ来の構築を狙い,多様性指向型合成ルートについて検討した.さらに合成糖鎖とレクチンとの相互作用解析を行った.
2: おおむね順調に進展している
生体の糖鎖は感染、炎症、生体防御、がんなど様々な生命現象と関与する。一方で、動物は細菌に特有の糖鎖構造(自然免疫リガンド)を認識して、生体防御を行う。また、多くのウイルスや細菌は細胞表面に存在する糖鎖構造を認識して感染する。このように糖鎖は、自己・非自己の認識において極めて重要な役割を担う。また、糖鎖は、約60%のタンパク質に付加され、タンパク質の機能を制御するほか、さまざまな生体分子と相互作用を介して、複雑な生体分子ネットワーク構造を形成し、生体の恒常性維持においても重要である。このような背景から、糖鎖は魅力的な医薬品のターゲットとして注目されているが、その複雑な構造から、大量スケールでの合成が困難であり、糖鎖医薬はほとんど実現されていない。本研究においては、反応集積化により糖鎖の効率的合成法を確立し、同時に糖鎖の機能解析と利用を検討することで、糖鎖医薬実現への扉を開く。新規アジュバント開発に関しては,温和で副作用を起こさないことが期待できるアジュバントを発見し,その合成を達成し,細胞系で機能を評価した.本研究で開発したリピドAアジュバントは,生体内共生菌由来成分であることから、安全なアジュバントとして有望であり,実際,アジュバントとして理想的な免疫刺激活性を持つことが確認できた.また,α-galのデンドリマーを合成することで,そのアジュバント効果が格段に高くなることを見出した.さらにこのアジュバントとワクチンの複合体の合成も達成し,この分子は高い効果を示した.N-グリカンライブラリの合成においても研究が順調に進展している.コアフコース含有N-グリカンに加えバイセクティンググルコサミン含有N-グリカン,リラクトサミン含有糖鎖を合成した.ここで確立した合成法は汎用性が高く,さまざまなN-グリカンの効率的合成の筋道が立った,
これまでの研究を踏まえて,以下の3項目に関してより一層研究を発展させる.(1)アジュバント複合化ワクチンを用いた効率的がんワクチン療法の検討:これまでに,アジュバントとして機能する自然免疫リガンドPam3SCK4とがんワクチンを複合化することでワクチンに対する抗体の産生を強く誘導できることを見出している.これは,がんワクチン-アジュバント複合体において、体内や標的免疫細胞におけるワクチンとアジュバントの局在が完全に一致するため、抗原提示能や免疫細胞活性化が向上したためである。本年度以降は,これまでに本研究で見出したアジュバントとしての利用が期待できるリピドAとがんワクチンとの複合化を検討する。加えて,α-galアジュバントに関しても様々なワクチンとの複合化を行い,臨床応用を目指して研究を進める.(2)N-グリカンのライブラリ合成とその利用:N-グリカンのライブラリ合成を行う。本年度はポリラクトサミンやシアル酸を持つ糖鎖の合成を行う.これらはガレクチンやシグレックなどのレクチンとの相互作用を介して,がんや望む臓器をターゲティングすることのできる分子として期待できる.なお,本年はより効率的なライブラリ構築を狙い,多様性指向型の合成ルートを開拓する.(3)革新的放射線内容療法の開発:放射性核種とターゲティング分子を複合化した抗がん医薬を創製し、それらを用いることによりがんの新規治療法として注目されている放射線内用療法の開発に結びつける。ここで,放射性核種として,α線放出核種を用いる.α線は強い線エネルギーを持つことから極めて高い効果が期待できる.実際に,α線がベータ線に比べて格段に高い細胞障害活性を持つことを確認し,動物レベルでも極めて効果的に働いた.本年度は本治療法の実用化に向けて研究を進める.
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すべて 国際共同研究 (2件) 雑誌論文 (17件) (うち国際共著 8件、 査読あり 17件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (50件) (うち国際学会 28件、 招待講演 6件)
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