研究領域 | 反応集積化が導く中分子戦略:高次生物機能分子の創製 |
研究課題/領域番号 |
15H05838
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
永次 史 東北大学, 多元物質科学研究所, 教授 (90208025)
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研究分担者 |
鬼塚 和光 東北大学, 多元物質科学研究所, 助教 (00707961)
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研究期間 (年度) |
2015-06-29 – 2020-03-31
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キーワード | 機能性中分子 / RNA高次構造 / RNA結合分子 / アルキル化反応 / G-カルテット構造 / 反応性プローブ |
研究実績の概要 |
近年、核酸は配列情報のみならず、形成される高次構造が遺伝子発現において重要な機能を持つことが明らかとなってきている。特に種々の機能性RNAではその機能を担うモチーフとして、様々なRNAの高次構造が重要であることがわかってきている。しかし現在これらの構造に結合するプローブはほとんど報告されておらず、その機能解明が進んでいない。これらの高次構造に結合しアルキル化反応を誘起するプローブはこれらの構造の役割を明らかにするのみならず、共有結合による強固な結合により、これらの高次構造を認識する蛋白質の結合を効率的に阻害できるものと期待される。本申請研究ではこれらの核酸高次構造を選択的にアルキル化する中分子として標的核酸に近接することで反応を誘起する部位及び標的核酸構造を認識する部位という2つの異なる機能を合わせ持つハイブリッド型核酸標的プローブの開発を目指している。H27年度には、高次構造のモデルとして脱塩基部位を持つ2本鎖DNAを用いて、反応を誘起する反応部位について検討を行い、高い反応性及び選択性を持つ反応性塩基を開発した。H28年度はさらに高い反応性及び機能性を目指して、ベンゾピリミジン骨格を持つビニル誘導体を新規反応性塩基として開発した。さらにH27年度の検討において、高次構造のうち2本鎖DNA中のT-Tミスマッチに反応するプローブとして、アクリジンとコンジュゲートしたビニルトリアジン誘導体を開発した。H28年度は、得られた付加体についてその構造を詳細に検討した、その結果、ビニルトリアジン誘導体はチミンの3位の窒素に反応していること、さらに、2本鎖内で付加体の相補的塩基がフリップアウトする可能性を示すことができた。またH27年度の検討で明らかとなった、グアニン4重鎖DNAに対するアルキル化についても検討した。その結果、ビニルトリアジン誘導体はグアニン4重鎖DNAに対しても反応することがわかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本研究を進めている際、高次構造のモデルとして脱塩基部位を持つ2本鎖DNAに結合するプローブとして、アクリジンとビニル基を持つベンズピリミジンを複合化した誘導体を合成した。アクリジンはインターカレーターとして機能する分子であるため、別の核酸高次構造として非常に注目されているG-カルテット構造に結合する可能性を考え、この構造に対するアルキル化能を評価した。その結果、非常に興味深いことにこのプローブがG-カルテット構造に対してもアルキル化反応を誘起することを明らかにした。さらに、このビニル体の安定前駆体である、スルフィド保護体が、G-カルテット構造を持つDNAに加えることで活性化され、アルキル化反応が進行することを明らかにした。ベンズピリミジン誘導体のスルフィド保護体は、1本鎖DNA、2本鎖DNAを加えてもまったく反応せず、この活性化がG-カルテット構造においてのみ起こることもわかった。G-カルテット構造は染色体末端に見られる1本鎖テロメア領域で形成されることが明らかとなっている。このG-カルテット構造を安定化する分子は癌細胞で活性化しているテロメラーゼによるテロメア伸長を阻害することから抗がん剤としての可能性を持つと考えられており、非常に意義がある。特に安定前駆体がG-カルテット構造内で活性化されることはこのプローブが細胞内においても適用可能であることを示していると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
今後は下記について検討する。 1)高次構造のモデルとして脱塩基部位を持つ2本鎖DNAを用いた効率的反応性部位の探索:H28年度に開発した高い反応性を持つベンゾピリミジン骨格を持つビニル誘導体の構造をさらに検討し、外部刺激による反応性誘起が可能な構造について検討を行う。 2)RNAバルジ構造をアルキル化する中分子プローブの開発:H28年度までにRNAに対するより高い親和性を持つ部位として縫込み型インターカレーターとアルキル反応部位をリンカーでつないだプローブを合成しその反応性を評価したが、反応性は示さなかった。そこで、今後はRNAに対して高い親和性を持つプローブを検索する方法の構築を目指す。特にInsituClick Chemistry を利用した新規スクリーニング法の開発を計画している。この方法を構築し、領域で合成される中分子を用いて、RNAの高次構造に結合する中分子プローブの開発を目指す。 3)G-カルテット構造をアルキル化する中分子プローブの開発:H28年度までに我々の概念に基づき設計した中分子プローブがG-カルテット構造をアルキル化できることを見出した。さらに、G-カルテット構造内で活性化される新規プローブを見出すことに成功している。そこで今後はさらに、G-カルテット構造内でより効率的に活性化される、新規反応性中分しプローブを目指して研究を行う。また現在はG-カルテット構造に結合する部位として非常にシンプルなアクリジンを用いているが、今後はこちらの構造についても検討を行い、より選択的にG-カルテット構造をアルキル化する中分子プローブの開発を目指す。
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