研究領域 | 反応集積化が導く中分子戦略:高次生物機能分子の創製 |
研究課題/領域番号 |
15H05839
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
垣内 史敏 慶應義塾大学, 理工学部(矢上), 教授 (70252591)
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研究期間 (年度) |
2015-06-29 – 2020-03-31
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キーワード | 炭素-水素結合切断 / 炭素-酸素結合切断 / 多環芳香族炭化水素 / ナノグラフェン / 分子間相互作用 / アリール化反応 |
研究実績の概要 |
本研究では平面性がありナノグラフェン構造をもつ新規多環芳香族炭化水素を、ルテニウム触媒による芳香環上の炭素-水素結合や炭素-酸素結合に切断を経るアリールボロン酸エステルとのカップリング反応を利用して合成し、それらに生体認識部位をもつ分子を導入することにより多環芳香族炭化水素に新たな機能をもたせることを目的としている。この反応では、カップリング反応を行う際に炭素-ハロゲン結合を利用しないため、目的の分子の合成の工程数が軽減できることも利点の一つである。 平成28年度は、π-πスタッキングを駆動力にした分子の集積化が行なえる構造をもつ多環芳香族化合物の合成に主眼をおいて検討を行った。アントラキノンの2位にCH2OTBS基を導入したシロキシメチレンアントラキノンを用い、炭素-水素結合切断を経るp-n-ヘキシルフェニルボロン酸エステルとのカップリングによりテトラアリールアントラキノン型化合物の合成を行った。種々の反応条件を検討した結果、立体的に込み合いが大きい位置で炭素-水素結合のアリール化を行うためにはRuH2(CO)(P(3-MeC6H4)3)3を触媒に用いることが効果的であることを見出した。ルテニウム触媒存在下、アセトン/メシチレン混合溶媒を用い140℃で24時間加熱させることにより、炭素-水素結合のアリール化を行った。その結果、目的のテトラアリール体を収率87%で得ることができた。ヘキシル基の代わりにオリゴエーテル部位をもつアリールボロン酸エステルとのカップリングにより、対応するテトラアリール体の合成も行った。 本新学術領域の班員2名により、p-n-ヘキシルフェニル基を導入したアントラキノンを使い2種類の細胞毒性試験を行った。しかしながら、キノン骨格をもつ分子では細胞毒性が見られなかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
多環芳香族炭化水素を短工程で合成する方法として、アントラキノン骨格をプラットフォームに使うことを選択している。そのため、カルボニル基のオルト位に位置する4つの炭素-水素結合すべてを反応させ、アリール基の導入を行う必要がある。このような効率的なアリール化が、2位に置換基をもつアントラキノンに対して達成させることが重要な点であった。本研究者のグループで見出したオリジナルの触媒反応系では、RuH2(CO)(PPh3)3を触媒に用いて行っていたが、この錯体では2位の置換による立体反発のため、テトラ置換体への変換効率が低く、目的に合致した化合物を合成することが困難であった。そこで、立体反発がある場合でも効率的にアリール化を進行させることができる触媒の開発が必要となった。種々検討した結果、ホスフィンとしてP(3-MeC6H4)3をもつ錯体を用いることにより目的の化合物の合成を達成することができた。
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今後の研究の推進方策 |
平成28年度に見出した研究成果・知見をもとにして、2位にアルコキシメチレン基をもつアントラキノンのテトラアリール化を行うことにより、それら化合物中のカルボニル基の変換を行い、テトラベンゾコロネン誘導体を合成する。特に、DMSOやエタノールなどの溶媒に溶解しやすい置換基を導入した化合物の合成を行い、それらがもつ自己組織化能の検討を行う。さらに、合成した化合物中のアルコキシメチレン基部位に生体分子認識部位を導入することを目指す。
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備考 |
DOI:10.1021/acs.joc.6b02623の論文がThe Journal of Organic Chemistry誌の表紙に採択されました。
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