本研究では、ナノグラフェン構造をもつ多環芳香族炭化水素が溶液中で自己集積する性質を利用し、分子内に生理活性をもつ分子を結合させて、効率的に活性部位に到達させる機能の創製を目指して研究を行っている。これまでの検討では、合成の各段階の収率が不十分であったことから反応条件を精査し、1つのアリール基に生理活性物質を結合可能な部位をもつテトラベンゾコロネンを良好な収率で合成できる反応系を探索した。まず、1-メトキシアントラキノンと4位にアセタール部位をもつフェニルボロン酸エステルとの反応を、5 mol %のRuH2(CO)(PPh3)3触媒存在下、1当量の炭酸カリウムを添加剤に用いてトルエン中120℃で2時間行い、C-O結合のアリール化生成物を単離収率60%で得た。次いで、4-ヘキシルフェニルボロン酸エステルとの反応を、RuH2(CO)(P(3-MeC6H4)3)3触媒存在下、アセトン/メシチレン混合溶媒中140 ℃で72時間反応させ、C-H結合がアリール化されたテトラアリールアントキノンを単離種率88%で得た。カルボニル基のメチル化に続く脱水反応により、ジメチリデン体を単離収率58%で得た。脱水素芳香族化を行うとアセタールの脱保護も同時に進行し、ホルミル基をもつテトラベンゾコロネンを単離収率34%で得た。エステル基をもつ化合物の合成も検討した。モノアリール化体が単離収率61%で得られ、続くC-H結合のアリール生成物は47%収率で得られた。しかし、カルボニル基のメチリデン化を達成することができなかった。 ホルミル基をもつテトラベンゾコロネンの1H NMRを測定したところ、25 ℃での測定では各ピークはブロードニングしていたが、120 ℃ではシャープになり各ピークは分離して観測できた。このことは、この生成物が溶液中で分子間相互作用をしていることを示唆している。
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