研究領域 | 反応集積化が導く中分子戦略:高次生物機能分子の創製 |
研究課題/領域番号 |
15H05840
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研究機関 | 関西学院大学 |
研究代表者 |
羽村 季之 関西学院大学, 理工学部, 教授 (20323785)
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研究期間 (年度) |
2015-06-29 – 2020-03-31
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キーワード | π電子系複合中分子 / 自己環形成反応 / π共役ベルト状分子 / イソベンゾフラン / 高次イプチセン / イソベンゾフラントリマー / 糖鎖分子 / 高次生物機能 |
研究実績の概要 |
今年度は、前年度に引き続きπ電子系複合中分子創製のための重要な合成ブロックとなるπ共役ベルト状分子の合成を中心に検討した。具体的には、同一分子内にキノン構造を導入したイソベンゾフランを用いる方法(Route A)と同一分子内に電子受容性のクムレン構造を有するジデヒドロイソベンゾフランを用いる方法(Route B)である。 前者の方法では、末端にキノン構造を持つイソベンゾフランを加熱条件に付すとエンド選択性に基づく二量化によってベルト状分子が得られることを既に明らかにしている。今回、より縮環数の大きなベルト状構造を構築するため種々検討したところ、環化前駆体を適切に芳香族化して平面構造を持たせると、自己環形成反応が効率良く進行することがわかった。 一方、後者の方法では、独自に開発したジデヒドロイソベンゾフランの効率的発生法をチオフェン環やセレノフェン環を持つ新規高反応性分子であるジデヒドロイソベンゾヘテロールの発生に応用できることを見出した。また、この発生法を基盤として各種捕捉剤と[2+4]環化付加反応を行った後、これを適切に変換することによって高度に縮環したイソアセノヘテロールへと誘導することができた。これらの知見は、様々な縮環数を有するベルト状構造構築のための有用な知見である。 さらに、今年度はベルト状分子構築のための新たなアプローチとして高次イプチセンの合成を検討した。その結果、トリプリセン型構造を有するイソベンゾフラントリマーの連続的な[2+4]環化付加反応を鍵として、テトラセンあるいはペンタセンを構成ユニットとする高次イプチセンの合成に成功した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
同一分子内に電子受容部位を持つイソベンゾフランをコアとする自己環形成反応を鍵として、縮環数の異なるベルト状構造の合成が可能になった。また、ベルト状構造構築のための新たな合成ブロックとして高次イプチセンを設計し、その合成に成功した。 今年度は研究計画案にある通り、分子内にキノン構造を導入したイソベンゾフランを用いる方法 (Route A) と同一分子内に電子受容性のクムレン構造を有するジデヒドロイソベンゾフランを用いる方法 (Route B) によって、縮環数の大きな分子構造の構築を試みた。Route Aにおける反応設計の指針は、同一分子内のフラン環部位とキノン部位との連続的な環付加反応によって、高次縮環構造を一挙に構築するというものである。中でも、速度論的支配によるエンド選択性に基づく二量化を検討した結果、ベルト状構造の構築には環化前駆体が平面構造を有していることが重要であることがわかった。一方、Route Bではハロゲン原子と脱離基を隣接位に持つイソベンゾチオフェン及びイソベンゾセレノフェンに有機金属種を作用させると、イソベンゾフランの場合と同様に対応するジデヒドロイソベンゾヘテロールが効率良く発生することを明らかにした。この際、イソベンゾフランを捕捉剤として反応を行った後、適切な条件で芳香族化することによって新規ヘテロアセンであるイソアセノヘテロールに誘導することができた。この結果は、縮環数の異なる多様なベルト状構造を合成するための重要な知見である。
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今後の研究の推進方策 |
電子受容部位を持つイソベンゾフランの自己環形成反応によってベルト状構造の構築が可能であることを明らかにしている。今後、この反応をベルト状構造構築のための一般性の高い合成手法として確立するため、出発物質の縮環数や置換基効果について詳しく調べる。特に、イソベンゾフランよりもπ共役系が拡張されたイソアセノフランを出発物質とする場合、その構造的特徴によりイソアセノフランの反応性の制御が課題となるため、イソアセノフランの効率的な発生とその捕捉について、集中的に検討する。合成可能になった各種ベルト状分子の三次元構造をX線結晶構造解析によって明らかにし、中空空間の合成的利用についても検討する。また、高次イプチセンの光環化反応によるベルト状構造構築も新たなアプローチとして検討する。 さらに、糖鎖-π電子ハイブリッド中分子の合成のための足がかりとしてポリアセン系分子への官能基化についても検討を開始する。既に我々は、アラインとイソベンゾフランの連続的な環付加反応を利用して置換ポリアセンが合成できることを見出しており、このアプローチによって構築できる種々の多環式芳香族化合物の酸素架橋部位やカルボニル炭素を足掛かりとした求核的な複合化や芳香環を利用した求電子的な複合化を駆使して、ポリアセン構造への糖鎖の選択的導入を検討する。糖鎖分子としては、ガラクトース含有糖鎖を用いて複合中分子の合成を検討する。将来的にはレクチンを標的とする酸化・還元部位を介したレクチンの構造変化と機能調節を可能にする高次生物機能の創出を目指す。
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