研究領域 | 反応集積化が導く中分子戦略:高次生物機能分子の創製 |
研究課題/領域番号 |
15H05842
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
谷野 圭持 北海道大学, 理学研究院, 教授 (40217146)
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研究期間 (年度) |
2015-06-29 – 2020-03-31
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キーワード | 合成化学 / 生物機能分子 / フローケミストリー / ソラノエクレピン / シストセンチュウ |
研究実績の概要 |
入り組んだ縮環骨格上に多数の官能基を有する生物機能性天然中分子は合成至難であり、製品化はおろか、ミリグラム量のサンプル供給さえ困難とされてきた。本研究の目的は、反応集積化(フロー合成法)を導入してこの限界を打破し、ソラノエクレピンAに代表される社会的要請の高い超微量天然中分子の高効率合成を達成することにある。ソラノエクレピンAは、世界的な食料生産上の大害虫ジャガイモシストセンチュウを根絶に追い込むための鍵物質とされ、農業分野での実用化が期待されている。 ソラノエクレピンAの実用的供給に関しては、まず初期段階の中間体であるビシクロエノンの大量合成を実現する必要がある。ビシクロエノンは、市販のエノンと不飽和ニトリル(4-メトキシ-3-ブテンニトリル)の塩基性条件下での共役付加反応により合成した付加体を酸性条件で環化させることで得られる。初年度は、この付加反応にフロー合成を適用する予定であったが、不飽和ニトリルの供給に問題が生じた。このため、市販の3-ペンテンニトリルを用い、エノンとの共役付加反応および無水酢酸によるエノラート中間体の捕捉が同様な条件で進行することを確認した。これにより、貴重な4-メトキシ-3-ブテンニトリルを浪費することなく、フロー合成の検討に入る準備が整ったことになる。 これと並行して、別経路によるソラノエクレピンAの大量合成についても予備的検討に着手した。すなわち、エーテル架橋を有するA環部6員環の新規な合成法を検討し、エポキシアルコールの異性化反応を用いる効率的な方法を見出した。この反応は、ハロヒドリンとエポキシドの平衡に着目した斬新な環状エーテル構築法であり、他の天然中分子の合成にも応用可能と期待される。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
フロー合成の反応条件を最適化する際には、条件検討の過程で大量の原料を消費することが分かっている。初年度には、貴重な原料(4-メトキシ-3-ブテンニトリル)を浪費することなくフロー合成の検討を行う準備段階として、市販の3-ペンテンニトリルが有効であることを見出した。また、ソラノエクレピンAの合成経路を根本的に見直すアプローチも手掛け、A環部6員環の効率的な合成法を開発した。
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今後の研究の推進方策 |
28年度中に、初期段階の中間体であるビシクロエノンの大量合成法を確立する。ビシクロエノンは、市販のエノンと不飽和ニトリル(4-メトキシ-3-ブテンニトリル)の塩基性条件下での共役付加反応により合成した付加体を酸性条件で環化させることで得られる。27年度は、この付加反応にフロー合成を適用する予定であったが、不飽和ニトリルの供給に問題が生じた。すなわち、市販の4,4-ジメトキシブチロニトリルを350 °Cで固体酸触媒に滴下して熱分解を行う反応が、再現性に乏しく十分な量の不飽和ニトリルを得ることができなかった。 そこでまず、この熱分解反応について詳細に検討を加える。具体的には、固体酸触媒であるリン酸水素カルシウムの活性化に必要な焼成条件を決定し、ついで熱分解反応に用いるガラスカラムの充填材を検討する。 これと並行して、4-メトキシ-3-ブテンニトリルの代わりに市販の3-ペンテンニトリルを用い、エノンとの共役付加反応についてフロー合成の予備検討を行う。すなわち、マイクロリアクターを用いて3-ペンテンニトリルと塩基のKHMDSを混合した後、エノンとの反応を-78 °Cに冷却したマイクロリアクター中で行う。この方法は大型の反応容器を使用しないことから温度制御が容易であり、無水酢酸との反応を経て立体選択性の低下なく付加体が得られる(A03班の永木と共同研究を予定)。 上記の熱分解反応が最適化され次第、4-メトキシ-3-ブテンニトリルを用いたフロー合成によるビシクロエノンの大量合成に移行する予定である。
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