計画研究
平成27年度の研究過程において、グアニジン、またはアルギニンを基質としたバイオインスパード・ワンポットageladine A天然物合成に成功した。さらに、アルギニンへの複合化により、ES細胞から誘導される神経細胞をニューロンへと誘導したり、阻害する化合物郡を発見した。これらの分子は、アストロサイトへの誘導には全く関わっておらず、ニューロンに選択的な稀な化合物郡である。このように天然物とペプチドの複合化により、それぞれの機能とは異なる新しい活性を発現させることに成功した。そこで平成28年度では、確立したバイオインスパード・ワンポット手法を、さらにニューロンへの選択的な分化・阻害機構解析のツールとしても展開した。すなわち、ビオチンやクリック反応基であるアジドやアセチレン基を導入したアルギニン含有ペプチドを調製し、上記に確立したワンポット複合化法を実施した。その結果、ageladine A中分子複合体が発揮した、神経細胞の分化誘導制御機構を解析するプローブ分子群を一挙に調製することができた。これらの分子郡を用いた検討、さらに神経分化に関する酵素群の阻害活性を総合的に評価した。その結果、標的酵素への特異的な結合が選択的なニューロンへの分化活性を制御している可能性を見出した。さらにこれらの知見を基に、より選択的で創薬にも使用可能な天然物・ペプチド複合体を検討した。平成27年度に続けて、より複雑、そして機能を持つペプチド内のアルギニン残基に対して、ageladine A誘導体のワンポット合成を検討した。アルギニン残基を含む直鎖や環状ペプチドに対して、共役ジアルデヒド、アンモニアや一級アミン、置換アルデヒドを順次作用させることにより、多様性を持つ中分子複合体を合成することができた。
2: おおむね順調に進展している
研究開始当初は計画班員との共同研究により、固相やフロー法を使用して、中分子複合体ライブラリーから他の活性を求めることも計画していた。しかし既に効果的なワンポット集積合成法と生物活性評価の実現により、がん細胞増殖阻害や神経細胞を選択的に分化させる実に顕著な中分子を見出すことができた。一方で、計画班や公募班や共同研究を行うことにより、(1)細胞表面での中分子複合化による高選択的リガンドの創製、(2)細胞や生きている動物内での分子イメージング、(3)生体内合成によるがん治療、さらに(4)集積合成によるプローブ合成などの新しい課題を開始した。当初の計画に加えて、これらの共同研究を併せて実施することにより、「中分子戦略」の領域課題と概念をさらに確立・進化させることができる。以上のことから、研究はおおむね順調に進展していると評価する。
平成28年度までに確立した申請者のワンポットageladine A中分子複合体の合成法は、実際に生体内でタンパク質が脂質代謝産物によって選択的に修飾を受ける事実(翻訳後修飾)に基づいている。すなわち、細胞上、あるいは生体内の特定の細胞上のアルギニン残基で翻訳後修飾の類似反応を起こすことができれば、生体内でのペプチド/天然物複合化が可能となる。そこで、平成29年度以降では細胞表面、さらには動物内でのageladine A中分子複合化に挑戦する。まず、関連化学の細胞表面や生体内での予備実験を実施して、生体内での中分子複合化が実現できるかどうかを評価する。特に平成29年度では、抗原糖鎖中分子を生きている動物内のがん組織選択的に導入し、免疫応答を効果的に起こすことによってがんを殺傷することを試みる。既に報告者は、糖鎖クラスターを基盤として、臓器や疾患に対する選択的なドラッグデリバリーシステムを開発している。そこで、がん細胞表面やがんモデルマウスのがん組織で遷移金属触媒を実施して、抗原となる糖鎖中分子を導入する。抗原の導入と免疫応答によるがん殺傷効果を評価する。この成果を基盤にして、さらにageladine A中分子複合体の細胞表面や生体内での合成研究を開始する。既に得られたageladine A中分子複合体の生物活性を指標にするため、この研究は特にがん細胞とES細胞を用いて行う。上記の糖鎖クラスターを試薬運搬ドラッグデリバリーシステムとして使用することに加えて、増殖が盛んながん細胞やES細胞において、脂質代謝産物やポリアミンなどの過剰に生産される生体内物質を反応の試薬として有効に活用する。生体内でageladine A中分子複合体化を行い、平成28年度までに見出したageladine A中分子複合体の増殖阻害活性や神経分化誘導活性を直接、生体内で発揮させる。
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