研究領域 | 反応集積化が導く中分子戦略:高次生物機能分子の創製 |
研究課題/領域番号 |
15H05843
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研究機関 | 国立研究開発法人理化学研究所 |
研究代表者 |
田中 克典 国立研究開発法人理化学研究所, 田中生体機能合成化学研究室, 主任研究員 (00403098)
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研究期間 (年度) |
2015-06-29 – 2020-03-31
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キーワード | 有機化学 / 中分子 / ペプチド / 天然物 / 生体内合成化学治療 |
研究実績の概要 |
平成28年度までに確立した報告者のワンポットageladine A中分子複合体の合成法は、実際に、生体内でタンパク質が脂質代謝産物によって選択的に修飾を受ける事実(翻訳後修飾)に基づいている。すなわち、細胞上、あるいは生体内の特定の細胞上のアルギニン残基で翻訳後修飾の類似反応を起こすことができれば、生体内でのペプチド/天然物複合化が可能となる。そこで、平成28年度までに確立したワンポット合成法を基に、平成29年度では細胞表面、さらには動物内でのageladine A中分子複合化研究を開始した。 まず生体内での中分子複合化を実現するために、A01深瀬班によって供給される抗原糖鎖中分子を生きている動物内のがん組織選択的に導入し、免疫応答を効果的に起こすことによってがんを殺傷することを試みた。既に報告者は、糖鎖クラスターを基盤として、臓器や疾患に対する選択的なドラッグデリバリーシステムを開発している。さらに、この糖鎖クラスターに対して遷移金属触媒を担持させることにより、糖鎖クラスターが集積する臓器で、プロパルギルエステルを用いた触媒的なアミド化反応を実施することに成功している。 これらの成果をもとに、まずがん細胞を用いて検討した。まず、がん細胞に選択的な糖鎖クラスターを探索したところ、末端にシアル酸を持つN-型糖鎖を含むクラスターを見出した。このシアル酸結合を含むN-型糖鎖クラスターに対してAu(III)触媒を搭載し、がん細胞に作用させることで表面に効率的にAu(III)触媒を担持した。次いでこの細胞に対して、抗原糖鎖にプロパルギルエステルを導入したプローブを作用させることにより、細胞表面のアミノ基で望むプロパルギルエステルのアミド化反応が進行し、表面に糖鎖抗原中分子を複合化することができた。さらに僅かながらがん表面での糖鎖複合化による免疫応答を確認することができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度では、本研究課題の最終的な目標である動物内でのワンポット中分子合成のために、まずは細胞表面に中分子を複合化し、その機能を操作できるかどうかについて検討を始めた。その結果、細胞表面で糖鎖中分子を複合化できること、さらにこの複合化によって生体内の機能を制御できる可能性を見出した。動物内での複合化や合成研究の可能性を大きく広げる成果であると考える。平成28年度までにフラスコ内で確立したワンポット中分子合成の実現もいよいよ期待できる。一方、今後、がん細胞表面への糖鎖導入の効率性をあげるとともに生体内で実現することによって、体内で有機合成化学を駆使して、免疫応答を誘導する新たな科学技術が成立する。動物内での中分子戦略の有効性と将来の可能性を実証できる。従って、研究はおおむね順調に進展していると評価できる。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、平成29年度で予備的実験として始めた細胞表面での糖鎖抗原中分子との複合化の効率を向上させるとともに、その免疫応答反応による抗がん活性化効果を発揮させる。さらに、タンパク質、細胞表面、あるいは生体内のグアニジンに対するageladine A中分子複合化の研究を開始する。 研究実績の概要に示したように、平成29年度では、シアル酸結合を末端に持つN-型糖鎖クラスターを活用して、がん細胞にAu(III)触媒を担持した。このがん細胞に対して、さらに抗原糖鎖にプロパルギルエステルを導入したプローブを作用させることにより、がん組織に糖鎖抗原中分子を複合化することができた。そこで今後はプローブの濃度や、金触媒キャリアとなる糖鎖クラスターの糖鎖構造を最適化することにより、がん細胞のアミノ基への抗原糖鎖導入効率をより向上させる。次いで、ヒト型抗体を作用させることにより、効果的に免疫応答反応を起こして細胞毒性を誘起する。さらにマウスモデルでも実施して、生体内での直接的な抗原糖鎖複合化によるがん治療を実施する。 最終的に生体内でのワンポットageladine A中分子複合体の合成に挑む。すなわち、既に研究期間前半で確立したワンポット法に従って、まずはモデルタンパク質や細胞表面タンパク質のアルギニン残基に対して、共役ジアルデヒド、アンモニアや一級アミン、さらに置換アルデヒドを順次作用させることにより、中分子複合体を得ることができるか検証する。研究期間前半で見出したMMP活性や、セリン/スレオニンキナーゼ阻害活性、あるいは神経細胞のニューロン選択的な誘導を可能とするageladine Aの中分子複合体合成を目指す。タンパク質や細胞レベルでのワンポット複合化、および機能の発現をもとに、ワンポット中分子複合化を生体内合成にも拡張する。
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