研究実績の概要 |
PPIs情報に基づく医薬候補分子の設計は,PPIs阻害剤の必要条件であるアミノ酸残基の種類と空間的位置情報を利用して行うもので,効率の良い新規中分子医薬の開発手法として期待されている。そのため三つの残基を結合できる官能基を三次元の広がりを持つsp3炭素の骨格に選択的に導入できるようにする試みを検討している。それに対応する分子骨格としてテトラヒドロピランの六員環構造と8方向にに空間的拡がりが形成される立方体炭化水素であるキュバンに注目した。それゆえ光学活性多置換テトラヒドロピラン骨格の一挙合成と新規多置換キュバンの合成を目的として研究を進めてきた。前者においては,二官能基性アミノチオウレア触媒をζ-オキソーα,Β-エノンにアセトンシアノヒドリン存在下作用させると,二カ所の不斉中心を完全に制御し,光学活性6員環エーテルを合成できることを見いだした。さらに,三置換体の合成にも成功している。また,正立法体炭化水素Cubaneの三置換体として,1,2,3-, 1,3,5-, そして1,2,4-型が考えられるが,サイト選択的ハロゲン化反応を利用し,3,5-ジブロモキュバンカルボン酸アミドを選択的に合成できることを示し,その二つの臭素原子を一挙に二つの炭素置換基に置き換える手法を見いだした。この方法によりキラルな1,3,5-置換型のキュバン誘導体を合成できることを示すことができた。炭素置換基が3個置換したキラルキュバンの例はこれまでない。現在このキラルキュバンを光学分割し,それぞれのエナンチオマーとして単離し,光学活性体としての物性を調べている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の目的である新規中分子医薬の開発手法として期待される三つの残基を結合できる官能基を三次元の広がりを持つsp3炭素の骨格に選択的に導入できるようにする試みであるが,それに対応する分子骨格としてテトラヒドロピランの六員環構造と8方向にに空間的拡がりが形成される立方体炭化水素であるキュバンの合成を達成することができている。キラルCubaneの1,3,5-置換体であるが,サイト選択的ハロゲン化反応を利用し,3,5-ジブロモキュバンカルボン酸アミドを選択的に合成し,その二つの臭素原子を一挙に二つの炭素置換基に置き換える手法を見いだしている。しかし,現在不斉誘導には至っておらず,この点を今年度の課題とする。
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今後の研究の推進方策 |
現在1,3,5-置換型のキラルキュバンを選択的に合成できるようになっているが,不斉誘導を行うことができていない。この分子変換の前駆体は3,5-ジブロモキュバンカルボン酸アミドであるが,ここからアルキルメタル化を亜鉛アート錯体で行えることを見いだしている。この際等価な二つの臭素原子を不斉非対称化することができれば,光学活性1,3,5-三置換キュバンの選択的合成が達成できる。このキュバン骨格は新たなファーマコフォアとして非常に興味深いものであり,今後はこの非対称化を中心に研究をすすめる。もし,この計画がうまくいかない時は,酵素反応による光学活性体の合成を試みる予定であり,この手法も合わせて検討する。
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