研究領域 | 反応集積化が導く中分子戦略:高次生物機能分子の創製 |
研究課題/領域番号 |
15H05846
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
大嶋 孝志 九州大学, 薬学研究院, 教授 (10313123)
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研究期間 (年度) |
2015-06-29 – 2020-03-31
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キーワード | 環境調和型触媒反応 / 空間的集積化 / マイクロフロー合成 / 中分子化合物 / アカデミア創薬 / 化学選択性 |
研究実績の概要 |
アンメット・メディカル・ニーズに応える新薬のリードとして中分子化合物が非常に期待されているが、これまで供給の困難さから医薬品としての中分子の使用は極めて限定的であった。そこで、中分子機能性化合物の大量供給法を開発するために、(1)環境調和型触媒反応の空間的集積化(マイクロフロー合成)と、(2)化学選択性の触媒制御法を基盤とする中分子化合物(ハイブリッド医薬品)の直接合成法の開発を行い、最終的にそれらを融合することで(3)中分子化合物の実用的生産法を開発することを目的として研究を行っている。 平成28年度は、研究実施計画にのっとり、多官能基含有化合物の効率的な合成を可能とする新規触媒反応の開発、多官能基含有化合物を基質に用いた化学選択的な触媒反応の開発、担持型触媒の開発とマイクロフロー合成システムへの展開を行った。 その結果、Zn触媒及び有機分子触媒によるN-無保護のケチミンへのエナンチオ及びジアステレオ選択的な求核付加反応(アルキン、活性メチレン化合物、ヘテロ芳香環などの求核剤)、鉄(III)-サレン二核触媒による化学選択的なエステル交換反応及び三級アルコールのエステル交換反応、Ni触媒による8-Aminoquinolineアミドの加アルコール分解反応、Ag触媒を用いた不飽和スルホン及び不飽和エステルへの化学及び位置選択的1,4-付加反応、などの新規触媒系の開発に成功し、また、マイクロ波マイクロフローシステムでの実用的な反応の構築にも成功した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
平成28年度の研究によって以下の成果をあげた。 ・これまで未開拓であったN-無保護のケチミンを基質に用い、直接1級アミンを合成する触媒反応の開発に取り組んだ。新規触媒系の探索を行い、ジアルキル亜鉛とカルボン酸から調整した触媒が酸-塩基協奏機能触媒として機能し、N-無保護のケチミンへのアルキニル化反応が効率的に進行することを見出した。また、他の求核剤を用いた触媒反応の開発にも成功しており、金属及び有機分子触媒を使い分けることで、高収率かつ高エナンチオ及びジアステレオ選択的な触媒反応の開発にも成功した。 ・新たに開発した鉄(III)-サレン二核錯体が、エステル交換反応により優れた化学選択性を有し(活性エステルも使用可能、芳香族アミン存在下、芳香族アルコールの選択的アシル下に初めて成功)、さらに、これまでエステル交換反応には適用例がなかったt-BuOHを基質として用いるエステル交換反応の開発に成功した。本触媒反応は特許を出願し、企業での実用化の検討を行なっている。 ・先にアミド交換反応を活用し、強固なアミド結合などを切断することに成功し、マイクロ波マイクロフローシステムによる実用化の向上にも成功していたが、生成物の有用性をより高めるために、アルコールを求核剤とした加アルコール分解反応の開発に挑戦し、C-H結合活性化反応の配向基として利用される8-Aminoquinolineのアミドを化学選択的に切断可能な新規Ni触媒の開発に成功した。 ・先にCu触媒によるアクリロニトリルへの化学選択的な1,4-付加反応の開発に成功していたが、今回、Ag触媒を用いることで、不飽和スルホン及び不飽和エステルへと基質一般性の拡張に成功し、さらに複数の水酸基が存在する中、β-アミノアルコールの水酸基を選択的に反応させることに成功した。 以上の研究成果より、本研究課題は「当初の計画以上に進展している」と判断した。
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今後の研究の推進方策 |
平成28年度までに行った研究を元に、平成29年度は、さらに領域内の共同研究を推し進め、生物活性天然物、ペプチド、糖、核酸などの多官能基含有化合物を基質に用いて触媒開発の検討を行う。特に、上述のように、化学及び位置選択的な触媒反応は、生体内化合物を用いた際にも、目的の位置の官能基のみを選択的に反応させることを可能にするものであり、1,4-付加反応以外の新たな化学及び位置選択的な触媒反応の開発にも成功しており、タンパクのラベル化や機能化などの様々な応用研究に展開していきたいと考えている。 また、現在開発中のマイクロフローシステムは、従来フロー反応には不向きとされていた反応をフロー系に組み込むことを可能とするシステムであり、触媒カートリッジの開発に関する共同研究をさらに推し進め、今後さらに様々な反応に適応し、中分子化合物の実用的生産法を検討していきたいと考えている。
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