研究領域 | 反応集積化が導く中分子戦略:高次生物機能分子の創製 |
研究課題/領域番号 |
15H05848
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
安田 誠 大阪大学, 工学研究科, 教授 (40273601)
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研究期間 (年度) |
2015-06-29 – 2020-03-31
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キーワード | 合成化学 / 有機化学 / 触媒化学 / 触媒 / 選択的反応 |
研究実績の概要 |
(1)ルイス酸によるカルボメタル化のフロー合成 アルコキシアルキンのanti選択的カルボメタル化に、ZnBr2を用いることにより初めて成功した。フロー系を用いることで、アルキンとの接触を避けることができ、活性亜鉛種が効率的に利用できる系となり、今後の展開が大いに期待できる状況となった。 (2)ジベンゾ[a,f]ペンタレンの初合成 インジウム触媒を用いることで、ジベンゾペンタレンの[a,f]体を初めて合成することに成功した。異性体の[a,e]体は100年以上前に合成が達成され、多彩な合成法の確立に伴い、近年、機能性有機材料の基本骨格として注目されているが、[a,f]体は、60年前にその合成が試みられたものの、未だ単離同定に至っていなかった。この化合物は5員環上での電子の高度な非局在化が見積もられ、反芳香族性の誘起と開殻性の発現が示唆されるユニークな性状を示す。 (3)α-イミニルラジカルの発生と合成展開 α-カルボニルラジカルを利用した合成研究は、現在さかんに行われている。ところがその窒素類縁体であるα-イミニルラジカルはこれまで報告がなかった。そこで、窒素上に電子求引基を付すことでその発生に成功し、炭素炭素結合に展開できた。光触媒がこの反応を効率よく進行させることから、フローシステムを用いることで、きわめて効率よく反応が進行することがわかった。 (4)有機ケイ素求核種によるアルケン類の直接官能基化 基幹原料であるアルケン類を直接的に官能基化することは、重要な研究課題である。取り扱い容易な有機ケイ素求核種の利用が望まれるが、導入可能な官能基に大きな制限があった。アルコール部位を有するスチレン誘導体に対して、インジウム触媒により、数多くの種類の官能基をアルケン部位に導入することに成功した。本反応は様々な置換様式のスチレン誘導体に対して適用可能であり、フロー系への応用も可能である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ルイス酸の研究をこれまで進めてきた経緯の中で、本年度は従来とは異なり、ホウ素以外の金属への展開を目指してきた。その成果が本年度の研究において達成され、多くの反応へと応用できたことは大きな進展であった。中でもフローシステムを用いて、これまで全く生成物を得ることができなかったカルボジンケーションにおいて、選択的かつ高収率で生成物を得ることができた。これは、新学術領域の共同研究の賜物であり、さらなる発展を期待している。また、多官能性化合物の一段階合成を可能にしたもので、中分子合成だけでなく、多くの合成反応への応用が期待できる成果である。 ルイス酸を用いることで前駆体を高収率で得ることができたことから、数十年来の夢であった[a,f]ジベンゾペンタレンを合成することに成功した。これは、ビラジカル性と反芳香族性をあわせもつタイプの分子で、きわめて特殊な性状を有することを明らかとした。また、その分子量は小さく、単純で応用の幅が広い分子であることも注目に値する。今後の誘導体合成の応用範囲はきわめて広く、多様な物性を有する分子として期待している。これを中分子に組み込むことを考慮した研究を行う予定である。 また、光反応により、α-イミニルラジカルをはじめて有機合成に利用する反応を見出した。これは、従来の方法ではハロイミンの還元電位が不適切であったことをつきとめ、電子求引基をN上に配し、その還元反応の効率をあげることが反応達成の鍵であった。この反応は、種々の薬品の合成への中間体となることから、合成化学的な価値がきわめて高い。 オレフィンに対して、一気に直接官能基化する反応を見出し、触媒的な反応へと発展させることができた。原子効率が高く、実用性が高く見込まれる反応系である。 これらのことから、本年度の成果はきわめて順調に進んでいると判断される。
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今後の研究の推進方策 |
昨年度に多種類の金属を検討し、それぞれの金属性状を利用した反応開発に成功した。これからは、それらの金属反応場のFine-tuningを行なっていく予定である。 まず、従来行なっていたカゴ型ホウ素錯体において、そのオルト位にアリール基を有する化合物をこれまで合成してきたが、その緻密な置換基効果を見る必要がある。この種の化合物は芳香族化合物を選択的に認識することを見出しているが、実際の反応機構はいまだ不明である。立体的要因が主であるのか、電子的要因が種であるのか、あるいはその両方の作用があるのかもわかっていない。すでにいくつかの類縁体を合成しているため、その反応速度と選択性を厳密に比較し、その性状を司るパラメーターを見つけ出すことを、喫緊の課題と考えている。したがって、パイポケットルイス酸の総合的な性状の解明に重点を置いた研究に軸足をおき、中分子合成への実用的な触媒として活用していきたい。このホウ素種を用いて、昨年度得られらた反応系に適用し、中分子合成への触媒としての展開を計画・実行する予定である。 また、フローシステムにおいて、亜鉛触媒の系において本年度きわめて有望な結果を得た。この系を利用し、一段階で多官能性化合物をつくる合成ルートを提案し、中分子合成に適応していくことを計画する。ここに、カゴ型ホウ素錯体をシリカ担持等させ、フローシステムへの適用を検討する。 また、昨年度見出したペンタレンを母骨格とする新しいパイ系化合物は、ビラジカル性を基底状態で有していることから、触媒に結合させることで、磁性とルイス酸性の相関を見ることが可能となる。このような新しいタイプのルイス酸反応場構築をめざしていく。
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