研究領域 | トポロジーが紡ぐ物質科学のフロンティア |
研究課題/領域番号 |
15H05853
|
研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
佐藤 宇史 東北大学, 理学研究科, 教授 (10361065)
|
研究分担者 |
瀬川 耕司 京都産業大学, 理学部, 教授 (20371297)
柏谷 聡 国立研究開発法人産業技術総合研究所, 電子光技術研究部門, 首席研究員 (40356770)
塚崎 敦 東北大学, 金属材料研究所, 教授 (50400396)
田仲 由喜夫 名古屋大学, 工学研究科, 教授 (40212039)
|
研究期間 (年度) |
2015-06-29 – 2020-03-31
|
キーワード | トポロジカル絶縁体 / 対称性 / 電子状態 |
研究実績の概要 |
本年度は、スピン分解光電子分光装置における電子分析系の改良を行い、さらに、MBE薄膜試料の電子構造を効率的に測定するための改良を行った。これらに加えて、(1)トポロジカル量子相転移の解明、(2)ディラック・ワイル半金属相の実現、(3) 表面・界面のディラック電子制御による新奇物性発現、(4)トポロジカル超伝導体の開発と検証、(5)エッジ流・奇周波数電子対・マヨラナ準粒子の検証、の5つの項目を中心に研究を行った。 1) (Bi,Sb)2Se3混晶を含む断面構造の素子を作製し、明瞭なambipolar動作を観測した。過去の研究ではバルク中の欠陥に由来する電子伝導が支配的であったが、チャネルを(Bi,Sb)2Se3混晶にすることで初めて外部電界による表面状態のフェルミ準位制御を実現した。 2) CaAgAsの軟X線ARPESにより、この物質が線ノード型ディラック電子をもつことを明らかにした。また、三方晶Teにおいて、らせん対称性によって保護されたワイルノードを観測した。さらに、空間反転対称性の破れによる巨大なスピン分裂も明らかにした。 3) トポロジカル超格子(PbSe)5(Bi2Se3)6の第一原理計算により、トポロジカルな起源をもつ界面状態が現れることを明らかにした。また、実験で知られていたPb-Bi相互置換が計算でも確かめられ、その効果を入れて初めて表面状態を再現した。 4) Sr2RuO4微小結晶をDC-SQUIDに組み込むデバイスの作製してRu金属の超伝導転移による自発磁化を検出するための測定を行い、自発磁化やKayenasu-Sigristモデルによるチューブ状のボルテックスは観測されないという結果を得た。 5) エッジ状態として誘起される奇周波数クーパー対とバルクのGreen関数の間にスペクトラル・バルクエッジ対応と呼ばれる関係式が成り立つことを提案した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
スピン分解光電子分光装置の性能向上やMBE装置で作製した試料の円滑な測定においては、期待通りのパフォーマンスを得ることができた。また、CaAgAsでは、これまで報告されているディラックおよびワイル半金属のような「点」ノードを有する物質とは異なり、この物質が「線」ノードを持つことを初めて実証した。この結果は、結晶の鏡映対称性やノンシンモルフィックな対称性に基づいた物質開拓が、新しいトポロジカル機能発現に向けて有用であることを示したものである。本研究では、トポロジカル絶縁体における表面・界面ディラック状態の制御などにおいても興味深い成果が得られており、トポロジカル超伝導の理論においても進展が見られた。以上の事から、研究が概ね順調に進展していると判断した。
|
今後の研究の推進方策 |
上記の研究をひき続き発展させるとともに、さらに以下に示す研究も進める。 (1)および(3): トポロジカル量子相転移の解明と表面・界面のディラック電子制御による新奇物性発現: 分子線エピタキシー法により、テトラジマイト混晶薄膜をチャネルに用いた電界効果型トランジスタを作製し、膜厚依存性を詳細に検証することで、フェルミ準位の制御性を確立する。さらに、結晶中に鉄を印加して、磁場中における輸送特性を精密測定するこで、量子異常ホール効果の実現を目指す。 (2) ディラック・ワイル半金属相の実現: 結晶の点群対称性やノンシンモルフィック対称性を基軸として、これまで観測されたディラック半金属やワイル半金属とは異なる新しいタイプのトポロジカル半金属を、層状物質、ホウ素化合物、ケイ素化合物などにおいて網羅的に探索する。 (4) トポロジカル超伝導体の開発と検証:ビスマス系銅酸化物高温超伝導体の上にビスマス超薄膜を作製し、その電子状態を詳細に調べることで、近接超伝導の有無を明らかにし、新しいトポロジカル超伝導体のプラッフォームと成り得るかについて検証する。また、Sr2RuO4における極低温マイクロ波キャビティ測定を行い、カイラルp波対称性が実現しているかどうかにを明らかにする。 (5) エッジ流・奇周波数電子対・マヨラナ準粒子の検証: 多軌道超伝導におけるエッジ状態およびスピンテクスチャについての理論を構築する。さらに、奇周波数クーパーペアの理論をさらに発展させる。
|