研究領域 | トポロジーが紡ぐ物質科学のフロンティア |
研究課題/領域番号 |
15H05854
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研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
藤澤 利正 東京工業大学, 大学院理工学研究科(理学系), 教授 (20212186)
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研究分担者 |
野村 健太郎 東北大学, 金属材料研究所, 准教授 (00455776)
江澤 雅彦 東京大学, 大学院工学系研究科(工学部), 助教 (10504805)
村木 康二 日本電信電話株式会社NTT物性科学基礎研究所, 量子電子物性研究部, 上席特別研究員 (90393769)
好田 誠 東北大学, 大学院工学研究科, 准教授 (00420000)
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研究期間 (年度) |
2015-06-29 – 2020-03-31
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キーワード | トポロジカル物質 / ナノ構造 / 電子輸送 |
研究実績の概要 |
本計画研究「トポロジカル物質ナノ構造の輸送現象」では、半導体ヘテロ構造・低次元ナノ構造や超伝導体・強磁性体のハイブリッド構造等によるトポロジカル物質ナノ構造を用い、新奇なトポロジカル量子現象を引き出し、トポロジカル系に特有なエキゾチックな準粒子の振る舞いを明らかにすることを目的としている。トポロジーとナノ構造により制限された自由度の下で、対称性・相互作用・近接効果が生む相乗効果により、特異な量子現象やエキゾチックな準粒子の発現、トポロジカル物質ナノ構造デバイスの基礎原理の提案、原理実証を目指すとともに、新学術領域内での連携により、トポロジカル量子相転移、トポロジカル超伝導、ワイル半金属、マヨラナ準粒子などの研究を行った。これらは、トポロジカル物質科学の基礎学理の構築と学問体系の樹立を目指す本新学術領域「トポロジーが紡ぐ物質科学のフロンティア」の目的遂行に貢献するものである。 初年度であるH27年度は、カイラルエッジ状態、ヘリカルエッジ状態、狭ギャップ半導体微小リング、トポロジカル物質ナノ構造の物性予測に関する研究を行った。特に、AlGaAs/GaAs系における整数・分数量子ホール効果のカイラルエッジ状態の非平衡状態、InAs/GaSb系における量子スピンホール素子のバルク伝導の制御、InGaAs/InAlAs系における永久スピン旋回状態に関わるスピン軌道相互作用の制御、強磁性ワイル半金属における新奇現象の理論予測、二層磁性体におけるSkrymionホール効果の理論予測などの成果を得た。これらは、当初計画していた研究内容とほぼ同様な内容であり、順調に研究が進んでいる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
主な成果として下記の研究成果を得ており、順調に進展していると考えている。 [1]量子ホールエッジチャネルの低エネルギー励起は朝永ラッティンジャー流体によって説明でき、その非平衡状態は熱平衡状態に達しない長寿命状態を示すと期待される。本研究では、占有率2のカイラルエッジを対向した配置によりスピンフルの朝永ラッティンジャー流体を形成し、間接的励起手法を用いることにより長寿命非平衡状態を生成することに成功した。 [2]アンドープInAs/GaSbヘテロ構造における電界によるバルク伝導の抑制に関する研究を進めた。バンド反転したInAs/GaSbヘテロ構造において、デュアルゲートを用いて界面に垂直に電界を加えることでバルク伝導を抑制し、エッジ伝導が支配的な状態を得ることができた。 [3]InGaAs/InAlAs量子井戸構造においてRashbaおよびDresselhausスピン軌道相互作用が等しくなるとスピン緩和が完全に抑制される永久スピン旋回(PSH)状態が実現できる。Rashbaスピン軌道相互作用のゲート制御性を向上させることでRashba係数の符号反転を可能にし、ゲート制御によるPSH状態とその逆状態を実現した。 [4]ワイル半金属は線形分散をもつ3次元電子系で、特に強磁性ワイル半金属はスピン軌道相互作用によって磁化と電荷が結合しており新奇現象の発見が期待されている。我々はこの磁化と電荷の応答を記述する有効理論を導出し、それを用いて電気的に誘起される新しいタイプのスピントルクが存在することを示した。 [5]反強磁性結合した二層磁性体中のSkyrmionではマグナス力が相殺するためにSkrymionホール効果が完全に抑制されて電流駆動で直進する事を示した。また、一般的な三次元ハニカム格子を定義し、ループ・ノード半金属やポイント・ノード半金属が出現することを解析的に示した。
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今後の研究の推進方策 |
[1]量子ホールエッジチャネルに現れる朝永ラッティンジャー流体特有の長寿命非平衡状態やスピン電荷分離現象について、モデルの有効性やプラズモン寿命に関する研究を継続するとともに、分数量子ホールエッジチャネルに適用した実験研究に着手する。また、コルビノ型電極を有する量子アンチドットの作製技術を確立し、アンチドットによる電子波干渉の精密測定を目指す。 [2]GaAs系分数量子ホール系において、広い量子井戸における1/2状態におけるエッジ状態をバイアススペクトロスコピーやショットノイズ測定によって明らかにする。 [3]InAs/GaSb量子スピンホール系について、3元混晶・歪みによるバンドエンジニアリングに向けて、エッジ散乱長の長い量子スピンホールエッジ状態の実現を目指す。また、バンド反転-非反転のゲート電圧による制御や、局所ゲートによるエッジ散乱の制御、超伝導接合の作製に取り掛かる。 [4]リング・細線構造などのメゾスコピック構造におけるスピン干渉効果の構造依存性などを系統的に評価することでトポロジーに依存するスピン物性の評価を目指す。半導体と超伝導接合が難しい場合には、半導体のみで実現できるトポロジカルスピン物性も視野に入れ探索していく。 [5]トポロジカル物質のダイナミクスや非線形応答に関してワイル半金属やループノード半金属を舞台に新奇現象を探索する。また、スキルミオンなどのトポロジカル構造の非平衡ダイナミクスを探求する。
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