研究領域 | 生物の3D形態を構築するロジック |
研究課題/領域番号 |
15H05857
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
秋山 正和 北海道大学, 電子科学研究所, 助教 (10583908)
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研究期間 (年度) |
2015-06-29 – 2020-03-31
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キーワード | 形態形成 / 数値シミュレーション / フェーズフィールド |
研究実績の概要 |
形態形成を研究する上で,形を数学的な方法で表現する方法を持つことが必要である.形状を数学的な方法を用いて定式化することで,形の適量的な評価を行うことができるだけでなく,コンピュータ・シミュレーションなどの方法を用いることができ,形作りの原理を明らかにすることができる.形状領域の形が前もってわからない状態で,領域内の変数を解くことは自由境界問題となり非常に難しい.しかしながら,生物はこの問題を何らかのメカニズムによりうまく解決している.それでは生物はどのようにこの問題を解きそして堅牢性を持たせているのであろうか.この方法がわかれば,形の数学的な記述法を確立でき,さらにその妥当性を検証できるに違いない.そこで,今年度は幾つかの生物現象に関して,3 次元形態を表現する数学的方法論を見つけることに重点をおいて研究調査を行った. 松野氏とのショウジョウバエ腸管に関する共同研究では,バーテックスダイナミクスモデルを用いシミュレーションを行った. 近藤氏のカブトムシに関する共同研究では,観察実験より,蛹期に将来角になる部分では,多数の皺(しわ)を見ることができた.成虫の角は2回の分岐があり,合計4箇所の突起構造があるが,この構造は,蛹期のシワにもその痕跡をみることができた.生物組織のほとんどが細胞シートの折り畳みとしてできることから,2Dから 3Dが出来上がっていく様子を折り紙のアナロジーを使う事で,空間トポロジーの数学として表現できると考えた.そこで,シート状の組織を表現するためのモデルに関して,研究を行った. 船山氏との共同研究でカイメンの形態形成に関して,フェーズフィールド法を用いた数理モデルを構築した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
松野氏とのショウジョウバエ腸管に関する共同研究では,腸管壁の細胞をバーテックスダイナミクスモデル用いて表現し腸捻転のメカニズムを検討した.当時,細胞の体積を一定にする条件を,細胞の辺の角度を拘束することで,間接的に実現していたが,この方法だと,捻転力を陽に仮定する可能性があったため,改善が必要であった.細胞の体積は頂点の3次元位置ベクトルを引数とする汎関数とみなすことができるため,その汎関数微分を正確に求めた.この方法は,他のバーテックスダイナミクスユーザーにも公開すべく,方法論をまとめHPに公開している.また,細胞のねじれに関しては,細胞のアピカル面とベイサル面が平行でないと,誤ったねじれ角を求めてしまう可能性があったため,ねじれ角の定義を検討し,基準を決めた.この新しい方法を用いて,腸管全体に対して,強制的に外力を加えて捻転させたところ,我々の先行するモデルと同様に,個々の細胞にもねじれを認めることができた.この際,細胞のねじれが腸管全体に渡る場合と部分的にねじれる場合があることがわかった.その結果,ベイサル面とアピカル面の辺の長さがある条件を満たし,かつ,細胞の体積がほとんど変わらない場合には,個々の細胞のねじれは腸管全体に渡ることがわかった.一方で,腸管全体を捻転させる際,腸管の前方と後方にどのような境界条件を用いるこが適切であるかに関しても幾つかの検討項目を列挙することができた. 研究の成果に関して,よりわかりやすく国民に伝えることを検討し,北海道大学のCoSTEPの後援により,サイエンスカフェが開催された(2015.11.19 札幌市 紀伊國屋書店1F).他にも,国内の主要な学会および研究集会において発表が行われた.
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今後の研究の推進方策 |
近藤氏のカブトムシの研究では,マイクロX線CTにより角原基(蛹期)のマイクロX線CT撮像データを得ることができた.この撮像データは膨大な量であり,このままでは,3Dプリンタで汎用の入力形式に対応しないことがわかった.そこで,汎用の入力形式へ変換する方法を検討すべきである.変換に関しては,マイクロX線CT撮像データを可視化するために購入したソフトを用いることを検討している.しかしながら,このソフトは非常に設定項目が多く,マニュアルも限定的にしか存在しないことがわかった.そこで,ソフトウェアの使用方法に関して,専門家よりレクチャーを受けることを検討すべきであると考えた.
松野氏との共同研究では,ある条件を満たした場合に腸管全体を捻転させると,個々の細胞もねじれることがわかったが,これは生物現象としては逆である.そこで,どのようにすれば腸管全体を捻ることができるかに関して研究を推進する方策である.数値計算では通常の差分法を用いた場合,計算時間が非常に多くかかり,計算のパフォーマンスが上がらないことがわかった.そこで,差分法の使用を高次の埋め込み型差分スキームに変更することを検討すべきである.
船山氏との共同研究では,フェーズフィールド法を用いて,カイメン全体の形と骨片細胞の運搬を表現するモデルを構築することができた.しかしながら,フェーズフィールド法は物の移動をオイラー的な表現で表すメソッドであり,骨片細胞の運動は粒子を用いているため,ラグランジュ的な表現方法となっている.現時点では,この相反する2つの表現方法をカップルさせることに成功しているが,一方が他方に強く影響を与える場合は強連成系の計算が必要なることもわかったため,モデル自体の変更が必要であると検討している.
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