計画研究
上皮組織は消化器,呼吸器など様々な器官の構築に欠かせない組織であり,実際,ほとんどの臓器・器官の3D構造は,上皮細胞シートの折り畳みとして作られる.胚発生時における遺伝子の発現パターンなどの解析は進んでいるものの,多数の細胞が集団で運動し,3D構造を形成するメカニズムについてはほとんど未解明である.本研究は,培養細胞を用いてから自律的に秩序のある3D構造を作り出すことで,形態形成の謎を解き明かすことを目指している.平成28年度では,研究実施計画に従い,粘性係数を任意に変えることができるシリコーンオイルを用いたゾル基質の開発を行った.その結果,シリコーンオイル上にコラーゲン,ラミニンなどの細胞外基質をコートすることで,上皮細胞シートの3D折り畳み構造を形成させることに成功した.ゾル基質の粘性係数と細胞外基質の組み合わせによって,小腸の絨毛突起に類似した構造を再現することにも成功した.さらに,細胞同士でお互いの運動方向を知覚する機構の探索を行った.ヒト食道扁平上皮がん細胞を用いて実験を行った結果,細胞間に局在するインテグリンβ1が細胞集団の協調的な運動に関与するという新しい知見が得られた.これらに加え,Ⅱ型ミオシン調整軽鎖(MRLC)がリン酸化すると蛍光を発するFRETプローブを上皮細胞に強制発現させて,蛍光ライブイメージを行う実験も昨年度に引き続いて行った.阻害剤および活性剤の投与実験の結果,上皮細胞に協調的な集団運動をもたらすMRLCのリン酸化は,ROCKとよばれるリン酸化酵素が関与することがリアルタイムのイメージングによって明らかとなった.
1: 当初の計画以上に進展している
平成28年度では,研究実施計画をほぼすべて遂行し,さらに,平成29年度に予定していた実験計画にも着手し,ゾル基質中で管状組織構造の形成を誘導することに成功しつつある.現在は,再現性の確認と条件検討を行っている.さらに,マトリゲル中に包埋培養した細胞が集団で回転運動を行い,突然回転方向が反転するという現象を観察した.この結果は,秋山グループのシミュレーション結果に酷似しており,共著で論文の投稿に至った.これらに加え,上皮細胞シートの上下で浸透圧を変える実験系の立ち上げにも着手し,3D形態形成の観察に成功している.
今後は研究実施計画をさらに推し進めるべく,ゾル基質中での管状組織構造形成の実験を行う.具体的には,冊状のパターン基盤に上皮細胞を播種し,その上からマトリゲルを重層することでゾル基質中に上皮細胞の管形成を誘導する.得られた結果をショウジョウバエの胚発生で腸捻転を観察している松野グループと共有することで捻転運動のメカニズムに迫る.さらに,秋山グループが提案した回転運動のモデルを検証するため,EGFなどのケモカインに対する阻害剤を投与して,回転運動への影響を調べる.得られた実験結果を武田グループとも連携し,インビボ系での現象と対比する.これらに加えて,球形のゲル基質を作成し,上皮細胞が出す基質把握力によって球形ゲルが変形する様子を観察する.得られた結果を井上グループの数値シミュレーションと比較する.
すべて 2016 その他
すべて 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 2件、 オープンアクセス 2件、 謝辞記載あり 1件) 学会発表 (2件) (うち招待講演 2件) 備考 (2件)
Data in Brief
巻: 6 ページ: 793-798
10.1016/j.dib.2015.12.053
Molecular Biology of the Cell
巻: 27 ページ: 3095-3108
10.1091/mbc.E16-05-0332
http://altair.sci.hokudai.ac.jp/g3/research/
http://www.3d-logic.jp/