研究領域 | 生物の3D形態を構築するロジック |
研究課題/領域番号 |
15H05858
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
芳賀 永 北海道大学, 先端生命科学研究院, 教授 (00292045)
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研究分担者 |
古澤 和也 北海道大学, 先端生命科学研究院, 助教 (00510017)
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研究期間 (年度) |
2015-06-29 – 2020-03-31
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キーワード | 細胞・組織 / 上皮細胞シート / 粘弾性基質 / アクトミオシン / 集団運動 |
研究実績の概要 |
本研究は,培養細胞を用いて自律的に秩序のある3D構造を培養シャーレ内で作り出すことで,上皮組織の3D形態が形成される原理の解明を目指す. 平成29年度では,研究実施計画に従い,短冊状のパターン基盤にイヌ腎尿細管上皮細胞(MDCK細胞)を播種し,その上からマトリゲルを重層することでゲル基質中に上皮細胞の管形成を誘導させ,この管状構造がゲル中で捻転運動を行なうかどうか共焦点レーザー顕微鏡を用いて蛍光経時観察を行った.その結果,管状構造がゲル中で回転運動することが明らかとなった.回転運動の起源を探るため,細胞数個から構成される上皮細胞コロニーをコラーゲンゲル基質上に播種し,回転方向の左右非対称性を観察した.その結果,回転運動の方向は左右で非対称であり,さらに,ミオシン1Dとよばれる細胞骨格タンパク質の発現を抑制すると回転運動の方向が左右対称となった. また,ヒト扁平上皮がん細胞(A431細胞)をマトリゲルに重層培養し,ゲル基質中での回転運動を観察した.その際,ゲル基質の粘弾性と回転運動との関係に着目した.実験の結果,細胞が集団で回転運動を行うためには,細胞集団を取り囲むマトリゲルの濃度に最適な濃度が存在することが明らかとなった. さらに,上皮細胞シートの3D形態形成についても研究を進めた.トランスウェルにMDCK細胞を培養し,上皮細胞シートの上下で浸透圧を変えることで,上皮細胞シートがドーム状の形態形成を示すことが初めて明らかとなった.ドーム構造の辺縁部においてミオシン調節軽鎖のリン酸化が観察された.これはドーム構造の辺縁部で収縮力が働いていることを示している. 平成29年度では,これらの実験に加え、胚発生のインビトロモデルとして球形のゲルカプセルを作成し,球形ゲルの表面に細胞を播種することで,細胞のアクトミオシンが出す基質把握力で球形ゲルが変形する様子を観察することに成功した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
平成29年度では,研究実施計画をほぼ全て遂行することができた.さらに,当初は平成30年度に予定していた実験にも着手し,A431細胞集団の回転運動に対する阻害剤の検討,核が光る細胞株を樹立するためのプラスミド(H2B-Emerald)の構築,MDCK細胞運動のキラリティを観察するためのパターン基盤の検討,ドーム構造形成を経時観察するための撮影システムの構築,さらに細胞基質把握力による球形ゲルカプセルの変形形状とカプセルの直径との相関について進捗を得ることができた.とくに,細胞集団の回転運動に関しては,秋山グループによるシミュレーションから予測される結果を実験的に再現することに成功し,共著の論文を出版するに至るとともに,国内外のシンポジウム,セミナーなどで招待講演を受けた.また,上皮シートのドーム構造形成については,2018年3月に開催された合宿において,数理モデルグループとのディスカッションによって今後の実験方針が定まり,平成30年度内には論文を投稿できる目途ができた.
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今後の研究の推進方策 |
今後は研究実施計画をさらに推し進めるべく,核が光る細胞株(H2B-Emerald-A431細胞,H2B-Emerald-MDCK細胞)を樹立し,マトリゲル中での3D回転運動,およびコラーゲンゲル上での2D回転運動を高解像度で観察する.とくに,キラリティの検証に関しては,コロニーの計上を円形に制限するパターン基盤を用いて詳細な観察を行う.その後,マトリゲル中で管構造を形成させ,ショウジョウバエの胚発生で腸捻転を観察している松野グループと連携し,得られた結果を共有することで上皮細胞による管構造の捻転運動のメカニズムに迫る.3D回転運動については,走化性因子SDF-1などに対する阻害剤を投与して,回転運動への影響を調べる.ゼブラフィッシュの体節形成における細胞集団の回転運動をテーマとしている武田グループとも引き続き連携し,インビボ系での現象と対比しながら回転運動の分子的および力学的メカニズムを調べる. さらに,胚発生のインビトロモデルの構築を目指す.これまでに,球殻状のゲルカプセルを作成し,ゲルカプセルの表面に繊維芽細胞を播種することで,球形ゲルが変形する様子を観察することに成功した.今後はゲルカプセルの内面側に上皮細胞を播種し,内側からかかる力で球形ゲルが変形するかどうかを観察する.さらに,ゲルカプセルが変形する機序を調べる目的で,ミオシン調節軽鎖のリン酸化の観察および阻害実験を行う.また,ゲルカプセルの直径,ゲルの厚みなどを変えることで球形ゲルの物性と変形率との関係を調べ,井上グループのシミュレーション結果と比較することで形態形成の力学モデル構築を目指す.
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