研究領域 | 生物の3D形態を構築するロジック |
研究課題/領域番号 |
15H05859
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
武田 洋幸 東京大学, 大学院理学系研究科(理学部), 教授 (80179647)
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研究期間 (年度) |
2015-06-29 – 2020-03-31
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キーワード | ゼブラフィッシュ / 体節形成 / 3次元 / シミュレーション / 形態形成 |
研究実績の概要 |
体節の伸長が細胞の集団回転運動によって促進されるメカニズムを明らかにするため、今年度は定量的な評価が必要な内容に関して個体数を大幅に増やすことで仮説の検証作業を行なった。その結果、以下の成果を得た。
①体節伸長過程における3次元細胞動態をバーチャル体節内で定量解析した。その結果、ほぼすべての細胞は隣接関係を大きく変化させることなく集団回転しつつ「南京玉すだれ」のように伸長方向に互いにずれ合うことで体節全体を短時間で伸長させることが確かめられた。これまで組織伸長のメカニズムとして、細胞が他の細胞の間に割り込むようにして移動し隣接関係を変えることで伸長する「インターカレーション」が広く受け入れられているが、本研究によって、「インターカレーション」ではない新しい組織伸長メカニズムが存在することがわかった。 ②背側体節に注目し、回転方向の細胞移動速度を定量解析した。その結果、脊索に近く伸長方向への「ずれ」が大きい細胞ほど速度が大きく、反対に側方に位置する細胞ほど速度が小さいことが分かった。実際に、回転方向に対して後方に位置する速い細胞が、前方に隣接する遅い細胞の背側にずれ上がる行動が観察された。 そこでSdf1(体節細胞の集団回転を引き起こすシグナル)の阻害剤を処理したところ、脊索に近い細胞の移動が特に抑制されて細胞間の速度差が小さくなり、この時確かに体節の伸長も抑制された。 ③これらの実験結果を踏まえて体節モデルを構築し、シミュレーションを行なった。その結果、単に回転させるだけでは伸長しなかったが、移動速度に勾配を与えた場合は効率良く伸長し、しかも水平に区切った細胞層はin vivo体節と同じ方向に傾くことが分かった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
体節伸長過程における3次元細胞動態をバーチャル体節内で多数のサンプルを用いて定量解析したことで、ほぼすべての細胞が隣接関係を大きく変化させることなくブラインドのように伸長方向に互いにずれ合うことで組織全体を伸長させるという、これまでに報告のない新しい組織伸長メカニズムを発見できた。この変形過程を軸にすえることで、集団回転運動が組織伸長に寄与するロジックを確定する作業が大きく進んだ。現在、以上の結果を論文としてまとめている。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの結果をまとめて論文として投稿するところである。 またこれと並行して、以下の追加実験を行う。研究実績②より、体節細胞は移動速度に勾配を持って集団回転運動することで、組織全体で細胞をずらして効率的に伸長することが示唆された。体節は隣接組織である脊索から分泌されるシグナル因子Shhの濃度勾配を用いて部位特異的に筋分化することが知られているが、Shhが細胞の移動速度の勾配をも生み出している可能性がある。今後は、Shhの阻害剤サイクロパミンや受容体smoothenedの変異体などを用いて3次元細胞動態を定量化し、速度勾配や伸長率が抑制されるかを調べ、速度勾配を作るメカニズムとそれが伸長に果たす役割を検証する予定である。また、これらの実験結果を踏まえて体節モデルをさらに改良しつつシミュレーション実験を行うことで、集団回転運動が組織伸長を促進するロジックをブラシュアップする。
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