計画研究
ショウジョウバエの後腸(単層円柱上皮からなる管)は左ネジ捻転して左右非対称化するが、この現象は、左右非対称性形成の既知の機構では説明できない。後腸上皮の頂端面を二次元モデルで扱ったこれまでの研究では、上皮細胞がこの捻転を誘発する機構は不明であった。この問題解決の糸口は、三次元(3D)モデル後腸での捻転のシミュレーションから得られた。三次元モデル後腸の捻転が、個々の3D細胞の頂端面と基底面の間の「ねじれ」と連動することが計算で示された。さらに、現実の胚後腸の上皮細胞でも、細胞の頂端面と基底面の間のねじれを観察することができた。つまり、細胞がキラリティ(細胞キラリティ)を示していることがわかった。しかし、細胞のねじれが形成され、それが後腸の捻転に変換されていく、ねじれによる後腸捻転の大部分の機構は不明である。本研究計画では、これまでの遺伝学的手法に加えて、in vivo 3Dライブイメージングと3Dシミュレーションを併用することで、後腸の左ネジ捻転を誘発する細胞レベル、分子レベルの機構を理解することを目的とする。この目的を達成するために、平成27年度において次の(1)、(2)の研究を実施し、それぞれで述べた成果を得た。(1) 後腸上皮細胞のねじれを定量的に解析する3Dシミュレーションを構築するための基礎データを取得するために、野生型胚の後腸上皮の3Dイメージをもとにして、後腸上皮細胞のねじれを定量的に解析する方法を検討した。その結果、後腸上皮細胞のねじれを、再現性よく検出する方法を確立することができた。(2) 3D後腸上皮コンピュータ・モデルにおいて個々のモデル上皮細胞のねじれを再現する3D後腸コンピュータ・モデルにおいて、モデル上皮細胞にねじれを導入する条件を検討した結果、頂端面と基底面を結ぶ「辺」(多角柱の側面の辺)の長さを大きくすることが有効であると予測できた。
2: おおむね順調に進展している
後腸の捻転が誘発される機構を理解するために、3Dモデル後腸で捻転を再現し、それに必要な上皮細胞の挙動の予測を試みた。その結果、後腸の捻転は、円柱上皮細胞のねじれとして検出される細胞キラリティによって起こっている可能性が示唆された。平成27年度の研究では、次の(1)、(2)の研究を実施し、それぞれでほぼ計画どおりの成果が得られた。その判断の根拠を以下に示す。(1) 後腸上皮細胞のねじれを定量的に解析する固定した胚の後腸上皮の3Dイメージをもとにして、後腸上皮細胞のねじれを、再現性よく検出する方法を確立することができた。後腸上皮細胞の頂端面は抗E-cadherin抗体、側面と基底面は抗Discs large抗体を用いた染色によって可視化することで、明瞭な3Dイメージを取得することが可能となった。また、後腸上皮細胞のねじれを検出するには、細胞を、その頂底軸に垂直な方向から観察して、細胞全体の3Dイメージを取得する必要がある。共同研究者が開発した画像解析ソフトを応用することで、3Dイメージの垂直方向からのずれを補正することに成功した。これにより、後腸上皮の3Dイメージをタイムラプス撮影し、細胞のねじれの時間的変化を解析することが可能になる。(2) 3D後腸上皮コンピュータ・モデルにおいて個々のモデル円柱上皮細胞のねじれを再現する3D後腸コンピュータ・モデルにおいて、頂端面と基底面を結ぶ「辺」の長さを大きくことで、モデル細胞にねじれを導入できる可能性が示唆できた。この指針を得たことで、今後、3D後腸コンピュータ・モデルにおいて、細胞のねじれによってモデル後腸の捻転を駆動させる条件の検討が可能になった。
後腸上皮細胞のねじれによって、後腸捻転が駆動される機構を理解するためには、ねじれの経時的変化を理解する必要がある。後腸が捻転する前に、まず個々の上皮細胞がねじれ、このねじれが解消されることで、後腸の捻転が誘発されると予測できる。しかし、in vivoで明らかになったねじれの経時的変化が後腸の捻転を誘発できるのかどうかは、3D後腸コンピュータ・モデルのモデル上皮細胞に同様なねじれを導入して検証する必要がある。平成27年度の研究によって、これらを検討していく準備が整ってきている。そこで、平成28年度の研究では、平成27年度の成果を利用して、次の(1)と(2)の研究を行う。(1) 後腸円柱上皮細胞のねじれの経時的変化の解析する捻転する前の後腸上皮は、基底膜側からみて時計回りにねじれている。これが、後腸の捻転後には、反時計回りのねじれに変化する。この現象が、後腸の捻転と連動して、後腸上皮細胞が頂底軸を中心に反時計回りに捻転したことによって起こったかどうかを、後腸上皮組織の3Dタイムラップス撮影と、それをもとにした画像解析によって明らかにする。(2) 3D後腸コンピュータ・モデルにおいて個々のモデル円柱上皮細胞のねじれを再現する後腸コンピュータ・モデルでは、円柱上皮細胞を多角柱として表している。多角柱の形状は、頂端面、基底面、側面、細胞の体積をそれぞれ表すポテンシャルエネルギーを導入し、これらエネルギーの最小化過程で生じるローカルな力の釣り合いの集積した結果として表現される。3D後腸コンピュータ・モデルにおいて、モデル上皮細胞の頂端面と基底面を結ぶ「辺」の長さを大きくことで、モデル細胞にねじれを導入する。ねじれの方向に左右のバイアスを与える条件を検討し、ねじれの解消によって、モデル後腸の捻転を駆動できる条件を検討する。
すべて 2016 2015 その他
すべて 雑誌論文 (3件) (うち査読あり 2件、 謝辞記載あり 1件) 学会発表 (7件) (うち招待講演 3件) 備考 (1件)
Genetics
巻: 199 ページ: 1183-1199
10.1534/genetics.115.174698
J. Biol. Chem.
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http://www.bio.sci.osaka-u.ac.jp/bio_web/lab_page/matsuno/index.html