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2017 年度 実績報告書

3Dモデルで解明する管状組織の捻じれを生み出す細胞動態

計画研究

研究領域生物の3D形態を構築するロジック
研究課題/領域番号 15H05863
研究機関大阪大学

研究代表者

松野 健治  大阪大学, 理学研究科, 教授 (60318227)

研究期間 (年度) 2015-06-29 – 2020-03-31
キーワード左右非対称性 / 三次元バーテックスモデル / 細胞のねじれ / 細胞キラリティ / I型ミオシン / 三次元ライブイメージング / 消化管 / 腸捻転
研究実績の概要

ショウジョウバエの後腸(単層上皮の管)は左ネジ捻転して左右非対称化するが、この現象は、左右非対称性形成の既知の機構では説明できない。後腸上皮の頂端面を二次元モデルで扱ったこれまでの研究では、上皮細胞がこの捻転を誘発する機構は不明であった。この問題を解決するために、三次元(3D)バーテックスモデルを用いた後腸捻転のシミュレーションを構築した。3Dモデル後腸の捻転が、個々の3D細胞の頂端面と基底面の間の「ねじれ」と連動することが計算で示された。さらに、現実の胚後腸の上皮細胞でも、細胞の頂端面と基底面の間のねじれを観察することができた。しかし、細胞のねじれが形成され、それが後腸の捻転に変換されていく、ねじれによる後腸捻転の大部分の機構は不明である。本研究計画では、これまでの遺伝学的手法に加えて、in vivo 3Dライブイメージングと3Dシミュレーションを併用することで、後腸の左ネジ捻転を誘発する細胞レベル、分子レベルの機構を理解することを目的とする。
この目的を達成するために、平成29年度において次の(1)、(2)の研究を実施し、それぞれで述べた成果を得た。
(1) 後腸捻転の過程で起こる後腸上皮細胞のねじれの経時的定量データの取得
野生型胚の後腸上皮の3Dタイムラプスイメージをもとにして、後腸捻転の過程で起こる後腸上皮細胞のねじれの経時的な定量的データを取得することに成功した。これらのデータをもとに、3Dシミュレーションを構築することが可能となった。
(2) 個々のモデル上皮細胞のねじれによって3Dモデル後腸の捻転を誘発する
(1)の研究でin vivoにおいて明らかにした細胞のねじれを、3D後腸コンピュータ・モデルに導入した。定性的ではあるが、細胞のねじれを再現する条件を3D後腸コンピュータ・モデルに導入することで、in vivoと同程度に3Dモデル後腸を捻転させることに成功した。

現在までの達成度 (区分)
現在までの達成度 (区分)

2: おおむね順調に進展している

理由

これまでの研究で、後腸の捻転が誘発される機構を理解するために、3Dモデル後腸で捻転を再現し、それに必要な上皮細胞の挙動の予測を試みた。その結果、後腸の捻転は、円柱上皮細胞のねじれとして検出される細胞キラリティによって起こっている可能性が示唆された。平成29年度の研究では、次の(1)、(2)の研究を実施し、それぞれでほぼ計画どおりの成果が得られた。その判断の根拠を以下に示す。
(1) 後腸捻転の過程で起こる後腸上皮細胞のねじれの経時的定量データの取得
平成28年度の研究で、後腸捻転過程の後腸上皮細胞の形態変化を明瞭に観察できる、3Dタイムラプス映像の取得方法を確立していた。この方法を用いて、多数の3Dタイムラプス映像を取得し、個々の上皮細胞の形態変化を定量的に解析するのに十分なデータソースを得た。また、共同研究者が、3Dタイムラプス映像のデータから細胞のねじれを算出する方法を改良、確立した。これらの成果によって、後腸捻転過程で起こる後腸のねじれの経時的な変化を定量的に明らかすることができた。この成果は、本プロジェクトの成功の鍵をにぎるものであり、研究計画の最難関を突破できたと言える。
(2) 個々のモデル上皮細胞のねじれによって3Dモデル後腸の捻転を誘発する
3D後腸コンピュータ・モデルにおいて、細胞のねじれによってモデル後腸の捻転を駆動させる条件を検討した。その結果、実験(1)において明らかにしたin vivoでの細胞のねじれを再現した条件で、3Dモデル後腸の捻転を誘発すことに初めて成功した。この条件をさらに詳細に検討していくことで、本研究の目的を達成できると考えれらる。

今後の研究の推進方策

後腸上皮細胞のねじれが後腸の管の左ネジ捻転を誘発する機構を、in vivo 三次元(3D)ライブイメージングと3Dシミュレーションを用いて解析する。この目的を達成するために、平成30年度に以下の(1)~(3)研究計画を実施する。
(1)3D後腸上皮コンピュータ・モデルを用いた上皮の管の捻転を誘発できる条件の検討 平成29年度までに実施した3D後腸上皮コンピュータ・モデルを用いた研究から、モデル上皮の管は、個々のモデル円柱上皮細胞のねじれによって捻転させられることが明らかになった。平成30年度では、一部の細胞を左右いずれかにねじることで、モデル上皮の管の左ネジ捻転を誘発できるパラメータを探索する。ねじれの大きさ、向きや、それらを示す細胞の割合などを検討する。最終的には、平成29年度の研究で見出したin vivoでの上皮細胞のねじれの定量的、経時的パターンを定量的にモデルに反映させる。
(2)ライブイメージングによる後腸円柱上皮細胞のねじれの経時変化の統計的解析
平成30年度には、細胞のねじれの定量的、経時的パターンを統計的に確定できるように解析する。また、後腸の捻転方向が反転するMyosin31DF突然変異体胚の後腸においても同様の解析を行い、後腸上皮細胞のねじれが野生型の鏡像になっているかを検討する。
(3)後腸円柱上皮細胞のねじれを誘発する機能の解析
後腸円柱上皮細胞のねじれが、細胞の頂底軸を中心とした細胞質の回転によって起こっている可能がある。そこで、合胞体胞胚期の将来後腸を形成する部分に微小な蛍光ビーズを顕微注入することで、後腸円柱上皮に蛍光ビーズを取り込ませ、それらの動きをタイムラプス撮影で解析する。蛍光ビーズの軌跡をコンピュータ解析することで、これらの細胞の細胞質の渦巻き運動の有無、その性質を調べる。

  • 研究成果

    (22件)

すべて 2017 その他

すべて 国際共同研究 (2件) 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件) 学会発表 (18件) (うち国際学会 7件、 招待講演 3件) 学会・シンポジウム開催 (1件)

  • [国際共同研究] マンチェスター大学(英国)

    • 国名
      英国
    • 外国機関名
      マンチェスター大学
  • [国際共同研究] シンガポール国立大学(シンガポール)

    • 国名
      シンガポール
    • 外国機関名
      シンガポール国立大学
  • [雑誌論文] Left-right asymmetric morphogenesis in Drosophila and other invertebrates: the discovery of intrinsic cell chirality and its functions2017

    • 著者名/発表者名
      Inaki, M., Yang L. J., and Matsuno K.
    • 雑誌名

      Reviews in Cell Biology and Molecular Medicine

      巻: - ページ: -

    • 査読あり
  • [学会発表] Chiral cell sliding drives left-right asymmetric organ twisting2017

    • 著者名/発表者名
      Mikiko Inaki, Hisao Honda, Kenji Matsuno
    • 学会等名
      The 4th Asia-Pacific Drosophila Research Conference
    • 国際学会
  • [学会発表] The cell-type specific functions of an ER modulating factor, Pecanex in Notch and Wnt signaling pathways2017

    • 著者名/発表者名
      Tomoko Yamakawa, Kenji Matsuno
    • 学会等名
      The 4th Asia-Pacific Drosophila Research Conference
    • 国際学会
  • [学会発表] Evolutionally cooperativity between mating position and rotation of male genitalia in Diptera2017

    • 著者名/発表者名
      Momoko Inatomi, Chisako Sakuma, Hirotaka Kanuka, Kenji Matsuno
    • 学会等名
      The 4th Asia-Pacific Drosophila Research Conference
    • 国際学会
  • [学会発表] The cell-type specific functions of an ER modulating factor, Pecanex in Notch and Wnt signaling pathways2017

    • 著者名/発表者名
      Tomoko Yamakawa, Kenji Matsuno
    • 学会等名
      Annual meeting of the Japanese Society of Developmental Biology
  • [学会発表] 上皮細胞組織変形の三次元シミュレーションを用いたショウジョウバエ消化管の左右非対称な捻転を引き起こす細胞変形の素過程の同定2017

    • 著者名/発表者名
      稲木美紀子、大久保明野、須志田隆道、秋山正和、井上康博、松野健治
    • 学会等名
      第69回日本細胞生物学会大会
  • [学会発表] Cell chirality drives left-right asymmetric morphogenesis2017

    • 著者名/発表者名
      Kenji Matsuno
    • 学会等名
      第69回日本細胞生物学会大会
  • [学会発表] 小胞体調節因子PecanexのNotchとWntシグナル伝達における細胞型特異的な機能の解析2017

    • 著者名/発表者名
      山川智子、松野健治
    • 学会等名
      第69回日本細胞生物学会大会
  • [学会発表] 細胞が示すキラリティがからだの左右非対称性をつくる2017

    • 著者名/発表者名
      松野健治
    • 学会等名
      日本動物学会第99回富山大会
  • [学会発表] ショウジョウバエ血球細胞が示す細胞質動態のキラリティ2017

    • 著者名/発表者名
      笹村剛司、栗栖大祐、秋山正和、松野健治
    • 学会等名
      日本動物学会第99回富山大会
  • [学会発表] Cell chirality drives left-right asymmetric development2017

    • 著者名/発表者名
      Kenji Matsuno
    • 学会等名
      Annual International Seminar on Trends in Science and Science Education 2017, State University of Medan
    • 国際学会 / 招待講演
  • [学会発表] Cell chirality drives left-right asymmetric development2017

    • 著者名/発表者名
      Kenji Matsuno
    • 学会等名
      The 3rd International Symposium on Mechanobiology
    • 国際学会 / 招待講演
  • [学会発表] Notch受容体の機能発現におけるO型糖鎖の多様で冗長的な機能2017

    • 著者名/発表者名
      松野健治
    • 学会等名
      2017年度生命科学系学会合同年次大会
    • 招待講演
  • [学会発表] 細胞質流動の計測による細胞キラリティ形成機構の解明2017

    • 著者名/発表者名
      栗栖大祐、笹村剛司、松野健治
    • 学会等名
      2017年度生命科学系学会合同年次大会
  • [学会発表] ショウジョウバエ胚上皮細胞のキラルなねじれによる管状上皮組織の捻転機構2017

    • 著者名/発表者名
      大久保明野、稲木美紀子、須志田隆道、秋山正和、井上康博、松野健治
    • 学会等名
      2017年度生命科学系学会合同年次大会
  • [学会発表] Notch シグナル構成因子 Pecanex とタンパク質小胞輸送制御因子 NSF の 機能的関連に関する研究2017

    • 著者名/発表者名
      近藤頼子、山川智子、松野健治
    • 学会等名
      2017年度生命科学系学会合同年次大会
  • [学会発表] 上皮細胞組織変形の三次元シミュレーションを用いたショウジョウバエ消化管の左右非対称な捻転を引き起こす細胞変形の素過程の同定2017

    • 著者名/発表者名
      稲木美紀子、大久保明野、須志田隆道、秋山正和、井上康博、松野健治
    • 学会等名
      2017年度生命科学系学会合同年次大会
  • [学会発表] Chiral cell sliding drives left-right asymmetric organ twisting2017

    • 著者名/発表者名
      Inaki M, Honda H, Matsuno K
    • 学会等名
      Mechanical forces in biology, Heidelberg, Germany
    • 国際学会
  • [学会発表] Chiral cell sliding drives left-right asymmetric organ twisting2017

    • 著者名/発表者名
      Inaki M, Honda H, Matsuno K
    • 学会等名
      European Drosophila Research Conference, London, UK
    • 国際学会
  • [学会・シンポジウム開催] The 4th Asia-Pacific Drosophila Research Conference2017

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公開日: 2018-12-17   更新日: 2022-08-29  

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